2005年度第4回 物性セミナー







「低次元強相関電子系の量子トンネル効果による非線形輸送」

講師 岡 隆史 氏 (産総研CERC )
日時 2005年 5月 31日(火) 午後1時30分$\sim$
場所 3号館 108

一次元Mott絶縁体に、強い電場をかけた時の非線形伝導について議論する。 よく知られているように、バンド絶縁体に強電場をかけると、 バンドギャップを飛び越える量子トンネル効果のために、 絶縁体中にキャリア(電子・正孔)が生成される。 これは、Zener効果と呼ばれ、生成したキャリアは電気伝導に寄与し、 抵抗は激減し、系はあたかも金属のように振る舞う。 類似の絶縁破壊現象は一次元Mott絶縁体の中でもおこり、 しきい値電場はLandau-Zenerの公式で理解できる[1]。

量子トンネル効果に基づく非線形輸送は、励起状態の様子を強く 反映したものとなる。バンド絶縁体とMott絶縁体の多体準位を 見較べると、後者においては、高い励起状態の間にも 数多くのギャップが存在することが分かる。これは、 Mott絶縁体の励起ギャップが電子間反発力による多体効果のために 形成されているからである。エネルギー準位を格子、 Landau-Zener遷移を格子間のホッピングとみなすと、 多体系の量子トンネル現象は「量子ウォーク」という、 ランダムウォークの量子版と対応していることが分かる。 [2]において、我々は簡単なモデルを用いて、Mott絶縁体を 含む多体系では、一般に、量子トンネル効果が阻害される 可能性があることを示した。

また、我々は最近、非線形輸送と、他の分野で研究されてきた 興味深い現象・概念との間にいろいろ関連があることに気づいた。 その一つが、分極の「Berry位相理論」と呼ばれるもので、そこでは、 波動関数の断熱変化を追跡し、その時の位相から電気分極を 定式化する[3]。もう一つが強い電場によって QED真空から電子正孔対が生成される「Schwinger機構」である。 講演では、これらが関連したものであり、統一的に理解できること[4]を 説明したい。

[1] T. Oka, R. Arita, H. Aoki, P.R.L. 91, 066406 (2003)

[2] T. Oka, N. Konno, R. Arita, H. Aoki, P.R.L. 94, 100602 (2005)

[3] R. Resta, P.R.L. 80, 1800 (1998)

[4] T. Oka, H. Aoki, cond-mat/0503503

○今後の予定
6/14 笹本 智弘氏 (東工大理)  
6/21 蓑口 友紀 氏 (東大総合文化)  
6/28 真船 文隆氏 (東大総合文化)  

○物性セミナーのページ http://phys.c.u-tokyo.ac.jp/ mino/seminar.html

○ 駒場セミナーカレンダー(駒場内のみアクセス可)
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連絡先: 福島孝治 (46513)


Koji Hukushima 平成17年5月19日