参加した研究会・ワークショップ:
2005年12月19日-12月20日@東工大百年記念館 SMAPIP研究会 確率推論の数理
Workshop on Mathematics of Statistical Inference (MSI2005)
確率的アルゴリズムの統計物理への応用と展開
2005年9月27日-9月30日@Paris 日仏セミナーRecent Development in Glassy System
Effective Temeprature in Survey Propagation

closingでCampbellさんが話していたが,スピングラス関係の日仏セミナーは10年以上前から断続的に続いているようで,その第一回は筑波で開かれたようである.私が大学院生のときである.その日仏セミナーの続編ともいうべき会議が,今年はパリのHenri Poincare研究所で行われた.「真理の探求,これが我々の行動の目的でなければならない.これをおいて行動に値する目標はない.」とはポアンカレの言葉である.(全く関係ないが,女王の教室の最終回で真矢先生の最後の授業での言葉には,これに非常に近い内容が含まれている.小学生にも聞かせるべき言葉かもしれない.)研究所にはPoincareの直筆のノートが飾ってあった.フランス語は全く理解できなかったが,微分方程式の多項式展開の式ではLugendre多項式がPで書かれていて,数学は万国共通言語だと改めて感動したのであった.

いつものように(研究費で出張しているので)研究会報告をすべきで,実際に裏日記にはメモを書き貯めたが,ちょっと研究に関係することが多いので,止めておきたいところ.自分の発表は相変わらずの下手糞であった.しかし,会議はとても楽しかった.有意義だったかどうかは,今回の私の場合はむしろ帰ってからのことにかかっているような気がする.講演や長い休憩時間でのおしゃべりで重要な情報が得られたり,痛いところをつかれたりした.それらからやるべきことややりたい小ネタが沢山わいて来た.研究に直結しない部分として...

1日目:Kurchanの講演は盛り上がっていた.しかし,正直よくわからなかった.スピン系の面白さは知っているつもりではあるが,ガラスと称して(ちゃちな)スピン模型を持ってこられるとかなりひいてしまう.Kinetically constraint modelも同様.必ずしもミクロが偉いとは思っていないけど,どのようなミクロな模型から,どのような状況でそのモデルに落ちるのかを明らかにしないとガラスとしての問題では有効でないと思う.例えば,超伝導の臨界特性を議論する一つの模型にXY模型がある.状況設定をキチンとしないと,けちょんけちょんにやっつけられる.が,ガラスの分野ではKCとかp-spinはケチョンケチョンにされないようだ.何かしらの本質を抜き出してモデル化をしているのだろうが,何が本質なのかを自分が分かっていない(か最初から完全にはずしているか)が最大の問題だ.その文化を味わえるのは素養がいるのかもしれない.
Nordbladさんの実験はよーく考えると,何かあるのかもしれない気がする.

2日目:Mezard氏はとてもコンパクトにまとまったきれいな話だった.でも,論文を読んだ以上の新しいことは何もなかった.Sherringtonの話を日本以外で聞いたのは始めてかも知れない.日本用はゆっくりと話してくれていたことを今回認識させられる.とても早口.絶対零度で5RSBまで計算して,内部磁場の原点でのギャップがでてくるとのこと.動機の部分を聞き逃したか...P.Sollichは強磁性での臨界点でのFD ratioの話.これもどこかの論文で読んだ話だった.今回の会議で有効温度が一つのキーワードになるかと思っていたけど,もういろいろ調べつくされたのか議論にはならなかった.すこし残念.休憩時間にSollichにはいろいろと聞いてみた.observable dependenceのこともそうだが,最近のcond-matのthermal activationを入れたら,有効温度が-3になるという話も突っ込んでみた.artifactでないことをかなり主張していた.そこには同意したけど,もうはや温度としての意味は完全にないだろうといったら,ムニャムニャになった.やっぱ,有効温度は有効じゃないのか.Sasaさんの話もFD violationはratioではなくて,差が大事.

3日目:粉でもlength scaleな実験があるのだった.ガラスはthermodynamicsかdynamicsかって,どうやったら判断できるのだろうか?
Sasakiくんの発表がよかった.それにMartin氏もマニアックに受けた.

4日目:前日から続いていたχ4の話.今回会議全体で一番盛り上がっていたのはこの手の話とか,ガラスでの長さのスケールの問題だったと思う.Cocoの話は問題設定が面白いと思った.逆問題を解くときのpriorの設定とか詳細がもう少し知りたかった(こういうところも個人的にマニアックな興味かな)が,すぐにいなくなってしまった.Riegerの最後の結果ももう少し考えてみたいところ.

2005年7月18日-7月21日 RC2005(Randomness and Computation)
Monte Carlo method --sampling from an extended ensemble --

これは特定領域SMAPIPと今年発足した「計算限界」(NHC)特定領域の合同研究会です.ここではお互いのグループからチュートリアル講演を2つずつ出し合うことになり,私はSMAPIPチームとして,perfect samplingの松井さんと対決する?ことになる.海の日から一週間の長めの研究会であった.

初日目(NHC1):最適化問題の専門家たちばかりかと思っていたが,向こうの特定のタイトルは「計算限界」なわけで,最適化もそのうちの一つの分野だということらしい.主に応用数学のような数学者が多いようであった.いやー,文化が違う.問題設定は,問題を解くと言うよりは,解くためにツールにどのくらいの手続きが必要かを数学的に厳密に押さえることが多いようだ.その気持ちはわからないわけではないが,まず最初の異和感は,問題に対する愛が感じられないことだ.個々の問題を解くと言うような個別論よりは,アルゴリズムとしてのもっと大きなところを狙っているのかも知れない.でも,まずは問題解いてみて,解を眺めてみたり,解くのに失敗して,その様を見たりすることから始まるのではないかな.当然そんなことはやっておられるのかもしれないが,そんな匂いがあまり感じられなかった.

最適化の分野でも,問題が難しいのは拘束条件がきついからだという認識はあるようだ(いや,私の考えはそっちから聞いたのだったかもしれない).そこで統計物理屋ならば,温度を入れて,拘束ゆるめようと思うのが一番自然なんだと思うが,そうではなくて,閾値を入れたり,陽に拘束条件をゆるめたりしている.そうすると,実は最初の問題とは全く違う問題になったりしていて,別の問題を考えていることになる.問題の数は増えるけど,知見は増えているのか.物理の分野でもパラメータ振ってみて見通しがよくなることはあるから,それと同じようなのりか.

二日目(NHC2):驚いたのは,Ising modelのGibbsサンプラーのmixing timeの上限がNlog Nで押さえられるとのこと.しかも,格子構造はほとんど無関係で,一般の最近接格子数nについていえるらしい.ただし,その証明ができるパラメータ領域はnに依存する.転移温度が入っていないので,ちょっと安心するが,ちゃんと理解していないけど,証明には物理的な性質は全く入っていないので,工夫をすればその領域が増える可能性は無くは無いのではないか.2次元の転移温度を含んでしまったら,物理屋が必至になって評価していた,z=2.15(くらいだったか?)が否定されることになる.しかも,2にlog補正付きだから,なんとなくありそうなシナリオでもある.でも,格子の構造が入っていないので,平均場の温度よりも下には来れないはずか.発表したのは統計数理研究所にいるD1の白石さん.一度セミナーでゆっくり話を聞いてみたい.

この日の最後にはチュートリアル講演があった.SMAPIPからは田中(和)さんが確率伝搬の話をされた.確かにK-SATなんかも,SPでバシバシ解いているようなので,こういう伝搬法は注目すべき方法かもしれない.確率分布を持ち込むところにギャップがあるような気もするが, 講演後のポスター説明でも,人混みが集まっていたので,受けているということだろう.

三日目(SMAPIP):ここからSMAPIP編になる.
樺島さんの話ではやはりなぞのxに質問が集中する.イタリアあたりでは普通のようでも,わからんものはわからん.もともとは整数で,1,2,3と大きくする程不安定化するから,小さくしてみたというのが直観らしいが,そういう直観は天才的.しかも,樺島さんの数値実験では最適なxは負になるようだ.負ってね.

私のチュートリアル.何を言ったかは忘れたが,小ネタで受けを狙い,笑いを勝ち取る.そういえば,この研究会で笑いが起こることってなかったなーと.それはさておき,講演はどうだったかな.個人的には楽しんだからよかったけど,思ったよりもK-SATって受けないんものだ.規模が小さいということかな.講演の後のポスターでは,おそらくSMAPIP側の学生さんが多かったかもしれない.後は,渡辺さんのところの若い人やら,Gibbs samplerの話をした白石さんとか.それから,西森研の浜ちゃんには完全に疑われているような質問をうける.「本当にSAT解見つかってるんですか???」イケてますよ,当然.

講演では示さなかったSAT相の結果をここで公開.SAT相でも転移に近くて,αdよりも大きなところの結果.ちゃんとゼロに収束してるし,比熱を見てもショットキー的にギャップが1程度で死んでいます.

松井さんのperfect samplingのチュートリアルの話は上手かったが,内容が難しかった.流れはわかったので,後は自分で押さえればいいということだろう.coalescenceを示すためにmonotonicityが必要なんだが,これはどんな系でもできるわけではない.今までに知られている例は強磁性イジングくらいで,それほど面白い問題ではない.更新関数を選ぶ自由度を使ってmonotonicityがちゃんと言えるかどうかが最大のポイントのようだが,「成立しない十分条件」はどうもはっきりしなくて,知られていないということだった.本当のところはどうなんだろうか.フラストレーションがある系ではダメのようだけど...今後の応用を考えるときには,このmonotonicityが最大の邪魔である.これを緩めたい気がする.部分空間でmonotonicityが言えて,部分的にcoalescenceが実現すればよいということにはならないだろうか?負符合問題で言えば,fixed nodeのような感じ.

他の方の講演も楽しく聞かせてもらう.池田さんの話も何度か聞くうちに段々わかってきた.「物理の人達の言葉は信用ならん,わかるわかるって言われても何にも分った気がしない」とおっしゃる.確かにざっくりとしたところや直観的な議論が多いのはわかる.そこで,最終日に恐る恐る「情報幾何で書ければ分った気がするの?」と聞いてみた.「絵で書けるからね.福島さんだって,自由エネルギーがこーんなぐちゃぐちゃになってるから難しいとか言って絵書いてるじゃない」と言われる.ちなみに池田さんは同級生.友人の藤堂さんの友達でもあるようだ.この二人はどちらも渋くて,格好がよい.

四日目(SMAPIP):研究会の最終日.
最初の講演は,東北大のD1(元堀口研)の大久保君の話であった.どこにも優秀な学生はいるものだ.彼の話はネットワークの話で,ノード数とリンク数を固定しておいて,適応度を参照しながら,リンクを組み換えて,ランダムネットからスケールフリーをつくる話をしてくれた.全部自分で考えてやったそうで,最後には簡単なモデルからレプリカ計算して,スケールフリーな例題の解析解を紹介してくれた.成長しながらつくるのではなくて,既存のノードから成長しないで作るところが新しいらしい.私の趣味ではないし,戦略もどうかと思うところもあるけど,自分でしっかり考えているところがとてもよい.講演を聞いて思いついた全ての疑問と不満を,講演の後でぶつけてみたところ,その全てが想定内だったようで,きちんと解答をくれて,指摘した問題の難しいところを説明してくれた.とても気持ちのよい学生だった.

府立大の森さん:喜多さんといっしょにGAをやっている.GAはもうすっかり御無沙汰しているが,最近はもうGAとは言わなくて,亜流がどんどん増えて来て,総称としてEC(evaluational computation?)と呼ぶらしい.今日の話は,GP(Genetic programing?)で,遺伝型として,情報を木構造でもっておいて,それに対してGAをやるらしい.ジャンクが入りやすくてなっていて,どのようにreductionをかけるのかがポイントということだった.講演では適当なテンプレートとのマッチングや,置き換えの話をしていたので,もっと単純に情報圧縮じゃダメなのかと聞いてみた.いろいろと教えてもらったところ,zipは出来るが,意味がわからんということだった.情報理論としての意味付けは考えればわかるかもしれないが,最適化手法としてのblockとしての意味や表現型との関係がわからなくなってしまっては困るということだった.なんだかいろいろ調べているようで,一つ聞くと十くらい答えが帰って来る.気持ちがよい.逆に交換法の探索能力のことも聞かれて,少し議論をする.面白かった.

2005年3月24日-3月27日 日本物理学会 第60回 年次大会 東京理科大学野田キャンパス
信念伝搬法のレプリカ非対称拡張についてのMC検証

有効温度の話しをしたいんだけど,裏で大きな非平衡のシンポをやるので,お客さんすくないだろうな. サボって書かなかった予稿集です.

一日目:
一番感動したのは,京都工芸繊維大の深尾さんの高分子ガラス系でのTwin temperature experimentの結果.とてもきれいなデータが出ていた.このプロトコルは,吉野君やPetraらのUpsalaのグループがスピングラス系で考えたものだが,スピングラス系では液体窒素温度よりはるかに下の実験で,かつ温度差の制御に悩ましい問題があったのだが,深尾さんの実験は常温でできて,かつ温度制御に問題なし.クロスオーバの温度差が20Kぐらいもある.講演時間の関係で詳細な説明を省いた有効時間の決定のところに実はドロ臭さがあると,講演の後に聞いたが,それでもしっかりと,accumulative-nonaccumulative のクロスオーバーのデータが揃っている.後は,適当な時定数を見積もって,one parameter scalingできれば,完璧だと思う.おそらく,できるだろうし,理論的な根拠など忘れて,スケーリングできるように時定数を決定して,温度差の関数として見てみればよいとコメントした.ドロップレット理論だなんだと言わずに,実験データとしてクロスオーバーを示すことはとても大事だと思う.

物性研の山室さんは,イオン性液体のガラス転移の話しをした.そのイオン液体は弱いが磁性をもっていて,磁石に引きつけられる.最近,新聞にものった話だ.ゆっくり冷やすと結晶化が起こり,4Kで反強磁性転移が起こるそうだが,急冷すると,ガラス化がおこり,磁性は0.5Kまで常磁性が残るそうだ.mKまでいくと,スピングラスになっているのではということだった.ダイポールでランダムネットか.数値実験で先に予言ができないかと思って,状況を質問したが,いかにもベタベタな質問だったと反省.ガラスのセッションでスピン系の特性を聞くのはダメですね.でもね,物性研だと榊原研であっというまに実験できると思うので,その前に理論的に予想できればいいのではと思ったわけです.後で,数人に話題をふってみたけど,反応は悪かった.「おまえがやれば?」ということですね.

二日目:
午前前半は,非平衡のシンポに出る.伊藤伸さんの講演まで聞く.後半はスピングラスセッションで自分の発表. 樺島さんの講演と対象的にするために,有効温度を前面に出す.Suvey propの反復方程式にパラメータxを導入して,もっともらしいxの値を決定するという話.「そのxは,T/xが有効温度と思えて,熱浴の温度よりもちょっと熱くて,FDT violationの有効温度と近い値をだすよ,意味わからんけど」と話す.このセッションでFDT violatinの話をしても,全然受けないのはまだまだツメが甘いということか.伊庭さんには,「xって,なんだかわからんね.有効温度って言うけど,何だろうね.有効有効って,もうそんな研究は無効だ」とバカにされる.

三日目:
今日は午後から参加したが,最初にヘリウムのシンポにでて,フラストレート磁性,高分子,最後に非平衡セッションと,精力的?に動きまわった.その中で印象にのこったのは....

  • 原研の梶本さんのフラクトンの話しで,3次元格子をランダムに希釈したハイゼンベルグ磁性の分散関係を調べた仕事.この話しは,私が大学院生のころに,計算物理の重点が走っていたころ,北大の中山グループが理論的に調べていた問題である.KEKの池田先生が勢力的に調べていらした問題でもある.私が大学院生のころは,池田先生は,Isingのパーコレーション問題を詳しく調べられていたと思う.ハイゼンベルグの励起状態も実は調べられていたようだが,理論の予想とはまったくあっていなかったようだ.それはエネルギー解像度に問題があったことが今回の仕事で明かになった.近年,当時(10年くらい前)とは解像度が2桁近く改良されて,改めて実験された.結果は,観測できる領域がqの小さい領域にどんどん進んで,理論が予想するフラクタル次元がバッチり出てきた.感動するくらいバッチリな結果であった.このような問題についてのサイエンティフックな評価は私にはよくわからないが,2桁の威力をまざまざと見せつけられた感じがする.できれば,もっとパーコレーション閾値からずらして,スピン波とのクロスオーバーが観測できれば完璧だと思うとコメントしたら,彼らにも同意してもらった.
  • 今日はすごいものを見 せてもらった.とあるセッションで,プロジェクターとの接続がうまくいかないコンピューターが出てきた.講演者はPCをrebootする間,講演をはじめた.なかなか立ち上がらず,結局10分くらい,資料なしで講演を進め,最後は黒板を使って説明をはじめた.はっきり言って,基本的な内容でムムムな内容だった.しかーし,聞けばM2の学生さん.トラブルにもめげず,堂々とした立派な発表で,関心した.合格です.こういう若い学生さんがいることは頼もしい限りです...でも,数値実験の結果はわかったけど,いろいろ解釈したであろうところはほとんどわからなかった...残念.

四日目:
ポスターセッションを見に行く.遠目から,近目から,いろいろと見学.幾つか詳しく議論した.コロイドセッションを覗いてからオフィスに戻る.学会では普段話せない人とおしゃべりできてよかったですわ.

「交換モンテカルロ法」について,最近感じたことをちょっと書いておく.私が現職を得られた多くの理由はこの論文だと想像するが,この論文は世に出てから数年経ち,一世代前の方法論になってきた.現在,化学物理の方面でもようやくウケてきているようである.「交換法すごいですね」と声をかけて頂くことが学会期間中にもあった.しかしながら,「今,流行っているからすごい」という多くの感想には少々違和感を感じる.この潮流を作ったのは,完全に私ではなくて,タンパク質の分野で精力的な研究と勢力的な広報活動を続けている分子研の岡本さんに他ならない.その結果,Pandeのグリッドプロジェクトに組み込まれたり,いろんなパッケージに盛りこまれたりしているのだろう.引用も私よりも岡本さんの方が引かれることが多いらしい.ある意味で当然だと思う(JPSJ的には困るか?).でも,本当に「すごい」のは「流行っているから」ではなくて,「やってみると結構すごい」のである.なので,体験なしに「すごい」と言われても,言っている本人もすごいと思っていないだろうし,私も特にうれしくはないわけである.(社交辞令で言ってくれているのに,全く失礼な私である.)

その意味で,常行研の学生さんのNTV版の交換MDのポスターを聞くのは楽しかった.これはLJ粒子系への応用で,一次転移を介するので典型的な失敗応用例なのだが,動径分布関数を見ると,結構きれいなピークを作っている.カノニカルMDでやると,思いっきりアモルファスなセカンドピークの分裂が起こっているにもかかわらずである.方法論的にはまずいのに,結果はうまくいっていそうなのはどういうことなのかと,すこし議論した.議論は大体私がいちゃもんをつけてばっかりなのだが,本当に何が大事なのかを知ろうとするとあんな感じになってしまった(初期緩和の(自動)アニーリング(ヒーティング)で勝負が決まっているのではないかというのが議論の結果.その後の交換プロセスがどのように有効になっているかを調べる方法はいろいろ思い付く.). 側から見ていると,交換法大嫌いなおじさんが若い学生にからんでいるようにしか見えなかったかも知れない.そうではないのですよ.その晩,常行先生とも少しだけ話した.「交換法,結構いいね.でも,本当に使うまでにはもう一歩」とのことだった.その足りないところは,計算機のパワーでなくて,人間が解決したいところ.その学生さんは修論をとり,この四月に就職されるそうだ.めでたいと思う反面,優秀な学生さんがこの分野から去ることを淋しく思う.

2005年2月28日-3月2日 京大基研研究会「モンテカルロ法の新展開3」

大学での仕事のために,2日目の夜?からの参加となる.アルゴリズムの研究会とは成立するのは難しいものだと思う.そもそも物理学者は方法に興味があることは少なく,対象となる自然現象に一番の興味を持っているものである(おそらく).なので,問題設定することに研究者の特性がいかされて,それをどのように解くかはさほど問題ではないことが多い.この研究会はその解き方に焦点を絞っているわけである.もちろん,対象が全く異なっても,解き方でつながることのメリットは多いにあると思われる.さて,この研究会はそれができただろうか?

私はその答えはわからなかった.なにせ,参加したのが最後の一日だけだったからね. しかし,個人的には方法に関する渋い(普段はなかなか相手がいなくてできないような,ある意味オタクな)議論が少しできたので満足できた.

  • Walkerのアルゴリズムとrejection free: Walkerのアルゴリズムというのがある.確率に比例する乱数を作る方法である.とても有名な方法らしく,Knuthにも出ているらしいが,私はずーと知らなかった.知ったのは駒場に来てからである.全く異なる文脈でその方法を知った.一回目はpoplation annealingでresamplingを愚直な方法で使っていたときに,藤堂さんに教えてもらった.元々の論文がIEEEの何とかという論文で,わざわざ文献複写依頼をして,読んだ.2度めはつい最近多自由度のheat bathをするときの新しい状態を見つけるときのアルゴリズムで,Walkerの方法をぶちあたる.ここでもそれとは気づかずに,文献複写依頼をして,論文を見たときに,以前よんだことがあることを気づく.結構便利な方法です.「これはrejection freeと同じか?」と問われて,いろいろと考える.全然違うのだが,突き詰めるとやっていることは同じような気もしてきたけど....やはり全然違うということがわかった.
  • 有限サイズスケーリングとKimの方法:Kimの方法(勝手に私がそう呼んでいるだけ)は少し前に知っていたが,昨年末に自分でも試してみて,実質的な問題点を理解すると同時に,あらためて不思議に思った.そんな話しを何人かの人とメールでやりとりしていたが,顔を合わせて議論することができた.みなさん,実際にやっている手続きは理解しているので,「どこまで信じるべきか」が議論の焦点であったが,藤堂さんとは怪しむべき一線をなんとなく共有できたようで,気持ちよかったのだ.