今日のおしらせ:先週の続きとして,帯磁率の表式をTAP流に書いてみる.表式を書いてみるだけ で,決して求めているわけではないが,谷の中の応答と谷をまたがった応答に分 けてでてくることがわかる.よくある教科書はこの2つがゼロ磁場帯磁率と磁場 中冷却帯磁率に対応しているという解釈はいい加減であることを述べる.ほとん どのひとはそんなことはわかっているのに,便宜上?いつもそのように説明され る.注意をした方がいい.ただ,本当に谷間の応答は絶対にありえないかという 指摘をうけた.これは実験でみえているものを考えたときに,平衡状態にいって いるかという根本的な問題にも関係しているので,現時点では簡単には答えられ ない.たとえ非平衡状態であることを考えて,いろいろな谷の状態がドメイン構 造として入り乱れている状態が実現していたとしても,上のような説明は正しく なさそうである.谷間の応答がみえないことは完全には否定できないとしても, 分離した形でみえることはないであろう.また,実際には動的な性質を議論する 必要があり,少なくとも最近の動的平均場理論に触れる必要がある.この点はま た機会があれば他の講義で詳解したい.
次に,レプリカ理論からわかった著しい結果を紹介と思った.元になる論文は, Mezard-Parisi-Sourlas-Toulouse-Virasoroの論文である.個人的にはこの論文 はすごいと思う.スピングラス関係の論文としては,TOP5に入ると思うんだけど, そんな評価はされてないのかなー.というようなことをしゃべったけど,それは 主観の問題なので,まじめに受け取らないで下さいね.さて,幾つかの話題があ るのだが,まずはTAP解の重みに関する情報である.先週スピン数の指数的に解 の個数があることを説明したが,本当にすべてが統計的に重要な重みをもってい るわけではない.そうだとすると,エントロピーにその残留分がのっかるはずだ けど,レプリカ理論では例えば絶対零度でエントロピーはゼロになっている.こ の問題は重みが非常に少ないということを示唆しているが,彼らの論文ではもう 少し強い状況証拠を示している.このことが先週の林さんの質問に対する部分的 な答えになっている気がする.すなわち,もともと統計力学的に有為な重みを持っ ている解はそれほど多くは無いので,比熱のように温度微分に解の個数の変化が 寄与することは実際的にはほとんどないのではないかということである.数値計 算でも解の個数の変化を考慮しない,ナイーブなTAP解からの計算でレプリカ理 論と一致する結果を得ている.だからといって,指数的にある他の多くの解が意 味の無い解だというわけではない.Parisiのq(x)関数から決まる重なりの分布関 数が非自明な成分を持つことは多数の解があることを反映しているような性質を 持っているわけなので,重みは低いくてカスカスな解でもとーっても沢山あつま ることで非自明な分布を作っていると思われる.なんか,いい加減な言い方だが, そんな感じがつかめるだろうか.こうしてみてみると,少しスピングラスについ て本とか論文とかで知っていた状況と結構違って見えるのではないだろうか.よ くタンパク質の自由エネルギーはファネル構造だと言われていて,スピングラス なんかよりも簡単な構造なんですよー,なんていう人(典型的な耳学問的にスピ ングラスをしっている研究者)がいるが,本当にそんなに違うものなんだろうか とおもう.どうだろうか.
次に非自己平均性と普遍的確率則について話をする.どうも先の論文も結果だけ を説明しているので,イマイチぴーんとこないかもしれないし,どの手の計算な のかも伝えられていないことは恐縮する.とっても高度な数学を使っているわけ ではないが,少しばかり計算を要する.しかも,その着想がどうも不自然である. これだと悪い言い方だけど,なかなか思い付かない構想だということです.そう いう意味でもその論文はすごいと思っているのです.さて,内容は分布関数の2 体の相関がバラバラに出来ないということと,分布関数を確率変数だと考えたと きの確率則をあからさまに書き出してみる.累積分布にすると一次のモーメント だけで高次のモーメントが全部書けてしまうことが特徴的である.これらはレプ リカ理論で示されたが,一部は厳密に示されていることを紹介する.レプリカ理 論の正しさを強力にサポートする一例だと言えると思う.最近のGuerraの話であ る.これも簡単な計算で厳密に非自己平均性が示されている面白い論文である. 私の印象としては,ヒット級かな. 今日はここまで.本当は超計量性の話まで 行きたかったが,時間切れ.来週はここから.