第9回のおさらい

今日のおしながき
  1. 統計力学の基本的な応用
    1. 量子系の調和振動子
      1. デバイモデル
    2. 相互作用のある系
      1. 例題
      2. スピン模型いろいろ
      3. 平均場近似
今日のまとめと反省

前回固体比熱の続きとして,デバイモデルの話をする.既にデバイ振動数まで求めておいたので,後は物理量をデバイの考え方にそって計算すればよい.固体の固有振動について様々な振動を足し合わせるわけだが,それぞれの振動数の結果は既に知っていて,各モードの状態密度とその上限の振動数(デバイ振動数)は前回求めておいたので,ほとんど計算することはない.パーと高温と低温の振る舞いを評価して,出来上がりである.積分しなくても,温度依存性はちゃんと出来て,しかもT^3則が出て来る.比熱の表式は温度/デバイ温度の関数として書けるので,いろいろな物質の比熱の観測データは適当なデバイ温度でスケールすれば物質に依らない曲線にのることが期待される.たしかにそんなデータもあり,示しておく.このような予言ができるところが統計力学の面白いところだろう.しかし,もちろん,比熱への寄与が他からくることもあるので,万事うまく説明できているわけではない.一つの例は電子比熱なんかだが,これは次学期の量子統計力学の講義を待つことになるだろう(これは私ではない.そこにいくための準備は次回にするつもりである.それ以降ならば,興味のある人は勉強できるだろう.私事だが,学生の時に講義を聞いていて,はじめて講義の先がどうなるか知りたくていてもたってもいられなかったのが,この辺りである.はじめて予習なるものをやって,講義では腕組んで構えていたっけ.今から振り返ってみて,講義関連で使い物になるノートが残っているのはそこだけである.)

さて,これまでのいくつかの応用例の話をした.応用を通じて,カノニカル分布による計算がどんなことをやっているのかを理解(?)しようというのがその意図であった.しかしながら,それらはあまりにも特殊な状況であることに気づく.すなわち,相互作用のない系ばかりで,状態の和や積分が簡単に分解されていて,あまり非常に多重度な積分をしていることに全く気づかずにいるかもしれない.そこで,相互作用がある場合にはどうなるかを考えてみた.例えば,理想気体に対して,粒子間の相互作用を少しいれると,不完全気体(相互作用を取り込むことで,理想気体(ideal gas)よりもより現実的になっているだろうと思うのに不完全気体(imperfect gas)とはどういうことなんだろうか?不完全な理想気体だよな.)になり,状態積分はとたんにまじめにはできなくなる.ほとんどの場合は粒子等の要素間に相互作用が入ると状態積分をすることができなくなる.その時はどうするか.3つあげた(が,この限りかどうかはちょっと不明).

  1. 厳密にできる模型を考える:モデル化は人間が抜き出した自由度の範囲で考えるわけだが,そこでできたモデルは解けないことが多い.その時に,そのモデルに近くかつ厳密に解ける模型を探すというのが,ここでの立場である.そんなモデルを見付けることは容易ではないが,少しはある.問題は調べたいモデルの近くにあるか,どれくらい近いかということか...
  2. 摂動展開する:モデルの中に小さなパラメータを見付けて,それについての展開を考える.もちろん,解けるモデルからの展開をするわけだが,大抵の場合は解けるモデルは相互作用のないモデルか高温極限であり,そこからの展開となる.このアプローチはほとんどどんなモデルでもできるが,どのくらい知りたいモデルに近づけるかは,問題により,摂動展開も高次の計算はそんなに簡単ではない.
  3. 数値的に調べる:状態積分を数値的に求める立場である.いろいろ方法はある.先の摂動展開を数値的にやる方法も考案されている.モンテカルロ法も一つの方法であるが,これはほとんどの模型に適用できるが,系の大きさに限界がある.どんなに凄い計算機の中でもアボガドロ数の状態積分をすることはできない.
こんな話をして,例題としてスピン系の相転移を議論する.

まずはスピン系の状況を概観することにした.本当は歴史的に話をするのも楽しそうだが,時間の関係でダイジェスト的な話をする.私が大学院を受けるときに,磁性の相転移の有無が空間次元に依るとか,スピンの成分数によるとか,格子の形によるとか,全然知らなかったので,今日の話も耳学問的には役に立つかと思って,話をしてみた.三角格子の三角関係なんかは,物理専攻でなくても知っておいてもいいかなと思ったわけです.最後に,平均場近似の話の導入をする.いよいよ相転移である.

今日の配り物.

なし.

今週の宿題:
  1. なんか,いったような気がする.
今日の質問:
ちょっとあったような気がする.
今日の雑談:

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Koji Hukushima (hukusima@phys.c.u-tokyo.ac.jp)