第3回

今日のおしながき
  1. 運動の記述
    1. 第三の法則
    2. 質量と力の次元・単位
    3. ガリレイ変換と慣性系
今日のまとめ:

今回は残されていた,第三の法則から話をはじめる.これは作用・反作用の法則と呼ばれるもので,この法則の帰結として,外力の無い場合の運動量保存則が導かれる.いくつかある保存則の全てはこのような形で表される.既に高校の物理にも登場してきて,入試問題を特には必須アイテムだが,あらためて出処やその表現を知るとちょっと驚かないだろうか.エネルギー保存則も同様な表現になるが,どちらも運動方程式の性質を使っていることがわかる.もちろん,いつでも保存則が成り立っているわけではないので,どういう条件の元で成立するのか,あるいはその条件は自然な条件稼働かを考えることは大事なことである.

次に,次元の話をする.運動学をこえて,力を導入したので,質量か力のどちらかの次元を導入する必要が出てきた.どちらか一つでいいわけだが,普通は質量の次元をとる.次元をつくるということは,その単位を決める必要もでてくるわけで,力の単位を作るのが面倒なのだろう.1Kgの塊を定義して保管するのは簡単でも,1Nの力を保管するのはめんどくさそうである(何かアイデアはあるか?).それから,単位系として,MKSとcgsの説明をしておいた.

さて,先週混乱を招いた慣性系について,もう少し考えるためにガリレイ変換とガリレイの相対性原理について話をすることにした.物理では「不変」な性質を大事にすることがある.先の運動量保存則も運動量が不変になっているルールを指しているが,それとは別の不変性の例がここである.ここでは2つの慣性系をもってくる.一つは静止した座標系でもう一つはそれに対して等速直線運動している座標系である.この2つの座標系から同じ事象(質点の運動)を記述しようと考える.このときの,一つの座標系からもうひとつの座標系に記述する座標系の変換をガリレイ変換という.すると,簡単な計算から2つの座標系での運動方程式は同じであることがわかる.これは等速直線運動している電車の中でボールを落としても,止まっている電車でボールを落としても同じ運動の法則に従うことを意味している.これは経験的にわかっていたことでもあり,運動の法則はガリレイ変換に対して不変であるとしようと積極的に要請することを,ガリレイの相対性原理と呼ぶ.理論の形式がガリレイ変換に対して不変になるようにしようというわけである.このような不変性の要請は理論に大きな制約を加えることができる. もっとも,この意味で電磁気学で出て来るローレンツ力のように慣性系に依存してしまうような力は困るわけで,これが(特殊)相対性理論の出て来る種になった. ガリレイの相対性原理の議論の中では,陰に陽に時間は慣性系によらないとしてきた.つまり,世界に一つだけの時計が時間を刻んでいるとしたわけである.そこが相対論では覆ることになる.が,それは力学の講義ではやらない...

ガリレイ変換の話をすることで,慣性系に対する考え方がわかりやすくなったのではないかと思う.ついでに慣性系でない場合について,話をする.非慣性系では,さきほどと同じ議論をすると同じ運動方程式は満たされない.そもそも第一法則が慣性系について言及しているのだとすればそれをやぶっているのだから,もはや運動の法則が成り立つと思う根拠なり,指導原理なりは失ってしまっている.ではどうするか.ということを考える練習かと思う.実際に地球が公転運動すると知ってしまった以上,もはや理想的な慣性系はこの地球上では存在しないわけで,その時にしらんふりして,運動の法則が成り立つと思うのか,まったくダメだと考えるか...ここで少し粘ってみるわけである.非慣性系でも運動法則,特に運動方程式は成り立つと考える.ただし,力のところに非慣性系であることに起因する慣性力を導入する違いが慣性系とはある.考えてみれば,力が何だかわからないのだとすれば,慣性力なる力を導入して,運動方程式が成り立っていると思うのは簡単な逃げ道かもしれない.この慣性系は我々が通勤電車の中で停止するときに体験する.おっとっとってやつである.これが正しいことは実験で検証してみればよい.地球が公転している決定的な証拠はこの慣性力の存在を検証したことである(きっと).これは講義の後の方でやるかもしれない.

このあたりで十五分前になったので,来週の予告,配り物,レポート問題の説明をする.5分前には終了する.

今日の配布物:

先週の講義で出てきた質問の返答とレポート問題(PDF:103KB)を配る.

今日の宿題:
特になし.ちょっと思いついた疑問があるが,これは次回のレポート問題とする.
今日の質問とコメント
そこまで説明して,どうして,絶対座標系の存在を否定しないのか?

これは痛い質問である.
いろいろと議論して,詳細を忘れてしまった.相対論までいったときに慣性系のような考え方はないのかという話しになったような気がする.慣性系は同じように構成しますが,理論がガリレイ変換に不変であるとすると,光速不変の要請に答えられないので,別の変換則(ローレンツ変換)に対する不変性を要請します.
ここは力学の講義なんだから,いきなり否定しては混乱の元と考えたが,絶対時間は否定する必要はないが,絶対座標系は否定してもよかったかもしれない.ガリレイ変換に対して不変な理論になっているので,結局,等速直線運動している慣性系の速度はいくつになっているかは,窓の外を見なければわからないわけで,どこかに絶対的に静止しているかどうか不明なわけか.

作用・反作用は一直線上でない場合もあるか...

これもするどい質問であった. 質問はいろいろあって,直線上の力でないことは否定されているかという問から,満たさない力はあるか,または,量子論や相対論で修正されることはないかという問まで. 答えもいろいろあって...そのときは先ずは質点を考えているので,直線からずれることは想定されていないと答えた.しかし,後で考え見れば中心力じゃない例もあるわけで,この例はその時も話したが,電磁気力には作用・反作用になっていないように見える力もある.量子論や相対論にいったとしても,基本的には第三法則が満たされている力が,満たされなくなるという例は知らない.ただ,問題になって来るのが,遠隔相互作用の取扱いだ.例えば,古典的には重力やクーロン力は瞬時に力が伝わると考えていたが,それが光速を越えられないとすれば,その意味で作用反作用はなくなってしまう.しかし,そのときにも近接的にその近くの場との作用反作用は満たされると考えている.うーん,これは修正されているというべきかどうか.

レポートは手書きでもよいか?解けなくてもよいか?

手書きはダメだとは一言もいってないですよ.手書きは多いに結構です.みなさんは大学入試をパスしたわけですから,すくなくとも答案用紙に他人の読める字が書けることは保証されています.気にせずに書いて下さい.ただし,丁寧に書くよう心がけて下さい.

「確かに字はあんまりきれいじゃないし,授業も単調ですね.」(出席表の裏より)

あ,いたたっ.修行が足らんですな.

レポートはどうしてA4なのか?

特に深い理由はないけど,実験のレポート用紙はA4に決まっているのではないだろうか.高校のノートはB5だっただろうけど,大学はA4なんです,と言い切ってしまおう.A4の方がたっぷり書けていいですし...本当に深い理由はありません.
今日(4/26)の帰りに,いきなり井の頭線で学生さんに話しかけられたときも,どうしてA4なのか...うーん,いいじゃないかー,A4で.学生さんとは渋谷まででしたが,ちょっとくっちゃべりました.そうやって,気さくに声をかけられるのはうれしいもんです.

ねむーい,どうせ微分方程式でいそぐんだから...
だから,なんだ!といいたくなります.一気に微分方程式解きたくなりました.
これでは,何だか反抗期の子供のような感想ですが,実際にこのコメントを機会に「微分方程式を解くことの意味」を考えてしまいました.運動の第二法則+力の法則によって,運動方程式を立てたとします.後は解けば良いだけなんでしょうか?解いたときに我々は何が新たに分かったというのでしょうか.
もっと早くすすめてくれーー.「物理学として..」の今第四章読んでんですよ.
結構です.ガンガン行って下さい.ただし,講義はそんなに早くは進められません.あしからず.もう大学生なんですから,一から十までだれかに教えてもらうという状況ではありません.自分で興味が持てれば,何もチンタラ進んでいる講義につき合う必要はありません.高みに登れたとしたら,その感動を教えてくれれば幸いです.それから,どんな本でもそうですが,かならずしも正しいことばかり書いてあるわけではありません.時に,内容を疑って読むこともお忘れなく.
(2004.4.29追記)今日気付いたが,上の2つのコメントは続いていたんだ.
もっと早くてもいいかも.とか,ねむかったけど,相対性理論のあたりで起きた.とか...
私の講義は総じて遅いようです.必ずしも全ての学生にとって,遅いのではないことは,これまでの試験結果をみればわかります.ただ,下の方ばかり見ていてもしかたがないわけで,ある一定の割合で「遅い」という感想があることは事実として受け止めています.それでは,もう少し急いで見ようかといつも思うのですが,それはなかなか実現しないのです.その理由を考えてみると,結局は急ぐ術を知らないのではないかと思えます.内容や文脈を無視して,つまみ食いのように話をすれば,講義のスピードはあがるでしょう.しかし,それは私にはできません.跳んでしまった文脈が気持ち悪くて,自分がわかったように話せないということです.
ねむかったけど,相対性理論のあたりで起きた.
しかし,学生はこのように考えるわけで,つまみ食いでも目新しい言葉を探すのですよね.えーと,講義では相対性理論の話しはしていません.
学生思いのペースで,分かりやすい講義だと思います.
というわけで,あんまり「学生思い」なわけではなくて,自分思いだったりするわけです.
ペースは遅いけど,その分わかりやすい.
それで,分かりにくかったら最悪です.講義しないで,教科書を朗読する方がまだましかもしれません.私が学生のころ,ほとんど本をボソボソ読んで帰ってしまう教官もいたけどな.
〇学の〇先生の授業のことを思うと,本当に素晴しい授業をしてくださっていると思います.
結局,世の中は相対的なものなんでしょうか.

どうもありがとうございます.本当はこういうのは載せなくてもいいのですが,なんとなくオチとして使わせてもらいました.
今日の雑談と反省:

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