先週の最後にアインシュタイン関係式を出したが,出しただけだったので,その非自明なところと不思議さを説明した.拡散係数を実験的に求めることで, ボルツマン定数あるいはアボガドロ数が評価できることになる. いくつかのステップ(例えば微粒子に対してもストークスの法則が成り立つか?)があるが,ほとんどが検証可能であり,Perrinにより実験がなされた.その概略をお話した.Perrinの実験は素直にすごいと思える.講義では「すごいと思うこと」について少しお話をした. このあたりの話しは駒場のアインシュタイン企画で5/10に話される佐々さんの方が100倍面白いと思う.
つぎに,このブラウン運動を記述することを議論する.まずは,簡単なイントロをした後で,ランジュバン方程式を導入する.ここでは,前回の運動方程式にランダム力を加える.その理由については簡単に説明したが,よく考えてみると不思議である.微粒子にかかる抵抗もランダム力も微粒子のまわりの媒質(水分子)の効果であるが,ここでは抵抗を生み出す部分とそうでない部分に分解したことになる.ランダム力は加えたというよりは,溶媒からの効果のうちに抵抗を生み出す項を抜き出したのこりをババとして押しつけた格好になっている.
方程式がでたので,これを解きたいのだが,まずはフーリエ変換を使って解く. ひととおり,フーリエ変換を定義しておく.特に速度相関をここで導入して,当面はそれを求めることをターゲットとする.ここでは相関関数は時間の差にしかよらない定常状態だけを考えることにする.その性質から,相関関数とスペクトル強度の関係(ウィーナー・ヒンチンの定理)が導かれる.この関係は相関関数一般に成り立つ.例えば,ランダム力の相関関数についてもまったく同様である.これらのことを使えば速度相関のω表示がランダム力の相関関数で表せる.これ以上はこのままでは進めないので,ランダム力の性質について何か決めないといけない.ここでは簡単な議論から,平均値がなくて,相関がデルタ関数的なホワイトノイズを選ぶことにする.
後はちょっと計算すれば,速度相関は求まる.最後に同時刻相関がエネルギー等分配則で決まることを使うと,ナイキストの定理が出てくる.ナイキストの定理の典型例であるジョンソンの熱起電力の話しを最後にする.やっぱ,実験をしらないとすごさがわからん?かと思って,説明する.RC回路の電流の式を書いて,ランジュバン方程式との対応をみれば,熱起電力のゆらぎの二乗が抵抗に比例していることがわかる.確かに実験はそうなっている.というか,実験が先にあったようである.私はキッテルの「熱物理学」でしか,ジョンソン実験のデータをみたことがない.だれか他に知れている人がいたら教えて.今日はここまで.来週は積分して解いてみて,揺動散逸定理を出してみることにする.
- 速度相関の最後の積分を確かめよ.黒板に書いたパスであってる?
- ナイキストの定理,量子効果はどのようにみえる?
- ランダム力は確率分布に従うのか?
ちょっと言いすぎでしたかね.モデルとして考えるのはよいけど,そうする妥当性はどうやって確保する?とか,検証できる?というのが質問だったと思う.モデルとしておいてしまうのだとおもうけど,分布という必要は今日の範囲では全くなかったです.
- スペクトル強度の測り方
講義で,「測れる量」の関係式や「測れる量と測りにくい量」の話をしたので,これは当然の疑問かもしれない. これはまた講義で説明したいと思う.