An Extended Scaling Scheme for Critically Divergent Quantities |
I.A.Campbell, K. Hukushima and H. Takayama |
cond-mat/0603453 |
とりあえず,レター版ができたので,cond-matに出しました.この仕事に関しては,よい話しやら悪い話やらいろいろエピソードがあります.内容は二次相転移の臨界現象の(新しい)スケーリング変数の提案です.これまでに部分的には実験や理論(高温展開)で知られていましたが,それを統一的に提案したのがこの話です.「狙ってとりにいった」というよりは,その辺を歩き回っていたら"当った"という感じの仕事でした.これまで知られている普通の変数を使うよりも,断然に,もうそれはビックリするくらい(ちょっとおおげさ)にきれいです.実験の解析にも使えます.何か新しい概念を産んだわけではないので,物理学の進展への寄予はほとんど無いですが,ちょっと賢くなった気がする仕事です.
内容の半分は,3次元イジングスピングラスの臨界指数の話で,これは10年前のD論のときにもやっていました.そのときには,帯磁率から決まるthermal exponentνとBinder parameterから決まるνが大きくずれて困っていました.困ったときには"correction to scaling"という謎の印籠があって,それで逃げてしまうのが業界標準でした.今回はそれを使わなくても,「新しい変数を使うとばっちりずれません」というのが大きな主張です.さて,10年前ちょうど交換法の最初の大規模応用としてがんばっていたのですが,そのころA.P.Young氏がKawashimaさんと同じ問題をbrute forceでやっていました.我々は根性が入っていなくて(というか落としどころがわからなくなってしまって),proceedingsしか出せませんでした.Kawashima-Youngに完敗だったわけです.それから十年後,別にこの問題に展開があったというわけでも何でもないのに,先月(2/10)Youngらはこの問題を交換法を使って調べ直して,cond-matに投稿しました.うすうす聞いていたとは言え,なんでシンクロするのだ!?といった感じ.今度は我々は秘密兵器(新スケーリング変数)を持っているので,簡単には負けません.
この仕事は,去年の9月に日仏セミナーでパリに行ったときに,Campbellさんとカフェで話したのがきっかけで始まりました.最初にうまくいくスケーリングプロットを見たのは12/6の帰りの電車の中だったので,それから少し時間がかかってしまいました.でも,学会前に間に合ってよかったです.原稿ができたときに,「そういえば,パリのカフェでのテーブルクロスの落書きからはじまったんですよね」ってメールを書いたら,「いやいや,はじまりは筑波なのかも」と返事が帰って来たときはちょっとジーンと来ました.最初の日仏セミナーがもう15年くらい前の筑波であって,そのときが初対面だったのです.私はピーピーの大学院生で何をやってたのかよくわからないし,会議内容も英語でよくわからなかった.なつかしい.これはちょっと「よい話し」.
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Nature of the phase transition of the three-dimensional isotropic Heisenberg
spin glass |
K. Hukushima and H. Kawamura |
cond-mat/0504016,
Phys. Rev. B72, 144416(2005) |
私がサボっていたために,こんなに遅くなってしまいましたが,なんとか投稿までこぎつけました.敵が世界中に多いので,掲載を勝ち取るまでにこれから時間がかかりそうです.個人的にはかなり苦しみました.残念ながら,これで完全決着という論文ではありません.ここ数年はこの論文をターゲットに潰しに来てくれればよいと思います.十年後,二十年後に生き残っている論文とは思えません.仮にこの論文の主張が生き残ったとしても,この論文には「主張」以外のことが沢山書かれていて...
(2004.4.4)一番最初に来たレスポンスは知合いから「大論文がでましたね.卒業論文ですか?」って,それはひどいじゃないの?
(2004.8.30)acceptの知らせが来る.レフリーとのやりとりで図を一つ増やすことになったので,cond-matにも改訂版をあげておいた方がよいだろう.
上の文章では何の研究かわからないので少し捕捉:3次元の丸い対称性を持った古典ハイゼンベルグスピングラスはスピングラス相転移をするのかどうかが基本的な問題であった.少し前までは有限温度スピングラス相転移はないとされていたので,実験との整合性は実は深刻な問題で,それに対して川村さんがカイラルグラス秩序なるものを提案した.部分的な対称性だけが自発的に敗れるというわけである.その状況証拠が徐々にたまってきたところに,やっぱりスピングラス相転移が有限温度で起こるんじゃないか派がアチコチからわいて来た.どれも部分的な証拠だったわけだが,数が集まればそれなりの勢いがあるようにも思えて来た.今回の我々の仕事は平衡状態の性質を広く調べて,やはり有限温度スピングラス相転移はなくて,カイラルグラス転移だけが起きていることをもう一度主張した.反対派に対しても,我々の立場からの解釈を詳しく示した.もう少し大きなスケールに数値計算が到達すれば決着がつきそうなことも論文の中で示してある.逆に,チョロイ計算でごちゃごちゃ言うのは難しいことを陰に言っている.あるいは,Mermin typeの議論をもう一度考え直してもよいかなー.特に技術的な進展があったわけではないが,別の人が考えるとよいことがあるかもしれない.
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Temperature Chaos and Bond Chaos in the Four-Dimensional +/-J Ising Spin Glass : Domain-Wall Free-Energy Measurements |
M. Sasaki, K. Hukushima, H. Yoshino, H. Takayama |
cond-mat/0411138, Phys. Rev. Lett. 95, 267203(2005). |
スピングラス状態は摂動に対して非常にsensitiveだとこれまでに予想されてきたが,それを実際に有限次元系で数値的に示してみたのがこの仕事.摂動は温度変化や相互作用変化だが,どちらも同じように平衡状態が壊れることが示された.また,その壊れ方を表す指数ζと,励起状態の自由エネルギーの指数θと励起状態の液滴のフラクタル次元dsの間に成り立つ式が一つの仕事の中で系統的に調べられて,それらの間のスケーリング関係式がチェックできたのはおそらく初めてだろう.
これまでの研究の思考(見るべき物理量)や技術(それを計算するためのテク)を持ちよって,このタイミングでこの仕事をやるのは我々だけだろうと思う.実際には佐々木さんがほとんど全ての仕事をやってのけた.さすが即戦力のポスドク!
(2005.11.4):投稿から一年,こんなこともあるんだなーといった感じ.私は短気なのであきらめかけていましたが,佐々木さんをはじめ他の方々の粘り強い対応のおかげで掲載可となりました.研究の内容はかなり面白いと思いますが,この結果は少々複雑な気分(かなり悪い)です.きちんとrefereeできないと業界がダメになる.
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Neel Temperature of Quasi-Low-Dimensional Heisenberg Antiferromagnets |
C. Yasuda, S. Todo, K. Hukushima, F. Alet, M. Keller, M. Troyer, H. Takayama |
Phys. Rev. Lett. 94 217201 (2005), cond-mat/0312392 |
低次元磁性体の研究は少し前に,実験的に一次元的や二次元的な物質が合成され,その磁性を詳しく解析されたことが研究の動機にあります.理論的には一次元・二次元系は有限温度で相転移しないことがわかっています.現実には本当に一次元・二次元系の物質はありえず,温度を下げて,効いてくるエネルギースケールが小さくなると,いずれ3次元性が見えて相転移が起きます.その時の,例えば1次元物質ならば,低温では一次元方向に非常に強い相関ができるのですが,相転移が起こるためには,残りの2次元空間での相関が発達する必要があります.そこで.具体的に量子モンテカルロ計算を行って,擬一次元,擬二次元の量子スピン系で相転移現象を調べ,残りの次元で有効的に結合しているボンド数に相当する量を評価してみました.その結果は古典スピン極限も含めてスピンの大きさに依らなかったのです.不思議です.
(2005.4.28追記):first authorの安田さんからPRLアクセプトされたとのメールを頂く.安田さんの粘りのおかげです.
(2005.6.15追記):この不思議さを気付いてくれている人達もいたようで,我々の見付けたことを理論的に考察しているプレプリントが今日のcond-matに出ていた.低エネルギーの有効理論を作って,普遍的なスケーリング関数の存在を議論している.個人的には古典スピン極限も含めているところが厄介かも知れないと思っていたが,そこはそうでもないようだ.彼らは我々よりももっと実験に測りやすい量のスケーリング関係を予言している.実験家の人達が乗って来てくれるだろうか.その前にその新たな予言は数値的にも検証すべきだろう.
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Field-Shift Aging Protocol on the 3D Ising Spin-Glass Model: Dynamical Crossover between the Spin-Glass and Paramagnetic States |
H. Takayama and K. Hukushima |
J. Phys. Soc. Jpn. 73 pp2077-2080 (2004).
(cond-mat/0307641) |
有限次元のスピングラスが磁場中相転移をするかどうかはいまだ解決されていな
い基本的な問題だが,この仕事では非平衡秩序化過程を見ることで探ろうとした.
磁場を切替えることで決まる特徴的な時間スケールがどうなるかをエイジング過
程で調べてみると,ある種のスケーリング則が成り立つことが見出された.その
スケーリングの一つの高磁場極限を含んでおり,このことから磁場を掛けるとい
ずれは高磁場の常磁性状態にクロスオーバすることを示唆している.つまり,我々
の結果は磁場中では相転移はしないとする解釈と符合する.
この論文はJPSJのLetters of Editors choiceに選ばれた.
私の貢献は極めて低く,高山先生の手柄である.これに選ばれると賞状がもらえる.
当然そんなことは知らなかったので,賞状なるものが貰えて驚き,そしてちょっとだけうれしかった.
日本のジャーナルJPSJをどうするかというのは難しい問題である.いろいろと改善すべき問題は山積しているとは思う.この賞は運営努力の一つなのだろう.いっしょに送られて来た手紙の最後に「次回の投稿をお待ちしております.」と書かれていた.こんな子供騙しのような賞状で...と思いながらも,またがんばって論文書こうと思った自分は,完全に術中にはまっている気がする.
(2004.9.1)JPSのホームペー
ジを見に行くと,トップページに出ています(一ヶ月限定).ただ,Letters of Editors Choiceって結構な数あるんですね.ちょっと冷静になりました.
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Eigenmode analysis of the susceptibility matrix of the four-dimensional Edwards-Anderson spin-glass model |
K. Hukushima and Y. Iba |
cond-mat/0207123 |
Numerical Study on Aging Dynamics in the 3D Ising Spin-Glass Model. III. Cumulative Memory and `Chaos' Effects in the Temperature-Shift Protocol
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H. Takayama and K. Hukushima |
cond-mat/0205276
J. Phys. Soc. Jpn. 71 3003 (2002). |
Dynamical Critical Phenomena in three-dimensional Heisenberg Spin Glasses |
M. Matsumoto, K. Hukushima, and H. Takayama |
cond-mat/0204225
Phys. Rev. B 66, 104404 (2002). |
Extended droplet theory for aging in short-ranged spin glasses and a numerical examination |
H. Yoshino, K. Hukushima, and H. Takayama |
cond-mat/0203267, Phys. Rev. B 66, 064431 (2002)
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Anomalously Soft Droplets and Aging in Short-ranged Spin Glasses
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H. Yoshino, K. Hukushima, and H. Takayama
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cond-mat/0202110
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Aging of the Zero-Field-Cooled Magnetization in Ising Spin Glasses:
Experiment and Numerical Simulation
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L.W.Bernardi, H. Yoshino, K. Hukushima, H. Takayama, A. Tobo, and A. Ito
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Phys. Rev. Lett. 86 (2001) 720.
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Non-Equilibrium Relaxation of Fluctuation of Physical Quantities
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N. Ito, K. Hukushima, K. Ogawa and Y. Ozeki,
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J. Phys. Soc. Jpn. 69 (2000) 1931.
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Replica-symmetry-breaking transition in finite-size simulations
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Koji Hukushima and H. Kawamura,
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Phys. Rev. E. 62 (2000) 3360.(cond-mat/0003226)
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Random Fixed Point of Three-Dimensional Random-Bond Ising Models |
Koji Hukushima
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J. Phys. Soc. Jpn. 69 (2000) 631.
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Chiral-Glass Transition and Replica Symmetry Breaking of a three-dimensional Heisenberg spin glass
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K. Hukushima and H. Kawamura
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Phys. Rev. E 61 (2000) R1008.
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Domain-Wall Free-Energy of Spin Glass Models: Numerical Method and Boundary Conditions
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Koji Hukushima
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Phys. Rev. E 60 (1999) 3606.
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Full Frustrated Ising System on a 3D Simple Cubic Lattice: Revisited
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L. W. Bernardi, K. Hukushima and H. Takayama
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J. Phys. A 32(1999) 1787.
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Exchange Monte Carlo Dynamics in the SK Model
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K. Hukushima, H. Yoshino and H. Takayama
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J. Phys. Soc. Jpn. 67(1998) 12.
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Monte Carlo simulation on aging processes within one 'pure state' of the SK spin-glass model
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H. Takayama, H. Yoshino and Koji Hukushima
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J. Phys. A 30(1997) 3891.
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Symmetry in the Phase Diagram of the Site-Random Ising Spin Glass Model in
Two Dimensions
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Y. Ozeki, Y. Nonomura and Koji Hukushima
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J. Phys. Soc. Jpn. 66 (1997) 1165.
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Relaxational Modes and Aging in the Glauber Dynamics of the Sherrington-Kirkpatric Model
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H. Yoshino, K. Hukushima and H. Takayama
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Prog. Theor. Phys. Suppl. 126 (1997) 107.
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Phase Diagram of Three-Dimensional Site-Random Isin Model
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Koji Hukushima, Yoshihiko Nonomura, Yukiyasu Ozeki and Hajime Takayama,
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J. Phys. Soc. Jpn. 66(1997) 215.
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Exchange Monte Carlo Method and Application to Spin Glass Simulations
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Koji Hukushima and Koji Nemoto,
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J. Phys. Soc. Jpn. 65 (1996) 1604.
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Spin Dynamics of the 3D $\pm J$ Ising Spin Glass in High Temperature Region.
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Koji Hukushima and Koji Nemoto,
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J. Phys. Soc. Jpn. 64 (1995) 2183.
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On the Forced Oscillator Method for the Engenvalue Spectrum Edge of $\pm J$ Random Matrix.
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Koji Hukushima and Koji Nemoto,
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J. Phys. Soc. Jpn. 64 (1995) 1863.
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A Monte Carlo Study on the Spin Dynamics of the 2D $\pm J$ Ising spin glass model
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Koji Hukushima and Koji Nemoto,
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J. Phys: Condens. Matter 5 (1993)1389-1398
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