とうとう最終回を迎えた.初回もそうであるが,最終回も緊張するものだ.さて,今日は,剛体を動かすことを考える.一番簡単な状況として,固定軸の回りの回転運動を考える.質点系の知識を活用するために,剛体をバラバラにわけてから,合計を計算する要領でいろいろと見て行くことにする.まずは,この状況での自由度であるが,軸を指定してしまっているので,残っているのは6のうち1つだけである.そこで,その自由度を決める方程式を考えるが,並進運動しているわけではないので,回転のための角運動量の方程式を考える.まずはバラバラにして,部分の角運動量を求めて,合体することで全角運動量を求める.さて,トルクの方程式はこの時間変化が力のモーメントに等しいとする.この方程式を眺めてみると,質点の運動方程式と類推ができる.すなわち,角度変数と位置変数,同じことだが,角速度と速度,力のモーメントと力といった具合である.そして残ったものが,慣性モーメントと慣性質量である.つまり,慣性を与える比例係数と似たような性質を回転運動でもっているのが,慣性モーメントだというわけである.回転の運動エネルギーを見ても,やはり1/2mv^2のような形になっている.もっとも,この対応関係では次元がちがうので,直接比較出来る量ではない.さらに,質量は,物体が決まれば,固定される量であるが,慣性モーメントは同じ剛体であっても,軸の取り方で大きさは変わってしまう.それに同じ質量でも剛体の形状に依存してしまう.
ここで角運動量の保存則を考えることで,スケーターのスピンのことを考えることが出来る.慣性モーメントと角速度をかけたものが角運動量の大きさなので,慣性モーメントを変化さえることで角速度を変えることができる.スケーターは手を回転軸に近付けることで,慣性モーメントを小さくして,角速度を増やして早く回っているのである.ちょっとここで強引だったが,角運動量が保存していることを体験する実験をやってみる.ファインマンの教科書にものっている「回転板と車輪」である.三階までもって上がって来るのが大変だった.これは前の晩に一人で練習実験したが,やはり学生さんに体験してもらうのがよいと思ったので,アシスタントをお願いした.こころよく名乗りを挙げてくれてありがとう.しかも,結構よりリアクションをしてくらたので,ちょっとだけ盛り上がった(と私は思った).
さて,本題にもどって,慣性モーメントが回転運動には大事なことを見たので,実際に求めてみようと思う.後で使う例として,棒の慣性モーメントを重心まわりとはしっこまわりを計算してみる.はしっこを回した方が,しんどそうな感じがするが,実際に慣性モーメントは大きい.さらに,円盤と球体の場合の答えを示しておいた.チェックしてみるように勧めた.(後で前の方の学生さんが,これは極座標に変換して,ヤコビアンを計算するとrが出て来るのだ..と解説していたので,聞いてみると,数学では多変数積分は習っていないとのことだ.それはまずかったか.).それから次に使う慣性モーメントの持っている基本的な性質を説明する.軸を平行移動したときに慣性モーメントがどう変化するかの一般的な公式である.証明は省略したが,簡単に示すことができる.
次に,回転軸のまわりの運動の例として,実体振り子を取り上げる.質点の運動のところで,さんざん振り子をやったので,とどめを押す意味?もあったかもしれない.実体振り子の周期を有効的な長さをもつ質点振り子と同じ方程式にかける.もっとも,その実効的な長さが慣性モーメントに依存しているわけである.棒の場合と,先の公式を使うことで周期を求めることが出来る.質点振り子だと周期を二倍にするには糸の長さを4倍にしなければならないが,実体振り子ではちょっとだけ支点の位置(軸と重心の距離)を変化さえるだけで実現できる.この性質を使っているのが,メトロノームである.
ここまで話して,講義を終了する.ちょうど十分前.最後にアンケートをお願いして終了する.ありがとうございました.
(2004.08.12追記) 質問があったので,解答の略解(PDF,48KB)を示します.
- 慣性モーメントの軸を平行移動したときの関係式って?
- 剛体の形状に依存しないのか.というのが質問.そうです.一般的に成り立つ式です.黒板に書いても数行なので,示した方が気持ちよかったのですが,なにぶん,今日はてんこもりの内容になってしまったので,そこをサボりました.学生さんには証明のアウトラインを説明しました.重心軸での慣性モーメントとそこから距離hだけ話したときの慣性モーメントの定義を書いてみて,r2の定義をほどいて,ホレホレとすれば出てきます.やってみましょう.
- 過去問は?
- って,以前にWEBで公開したでしょう.と思ったが,それほどこのページは参照されていないことに気付いて,これこれここにあるよと説明する.さらに,講義のトップからもリンクを貼ることにした.なんて,親切なんだろうか.
- 今日のアンケートの裏から
- 今日は最後に,「授業評価アンケート」をお願いしました.アンケートに際して,アンケートの意義
(があんまりないこと)を説明した.でも,他人を客観的に評価する訓練としての意味はあると思うので,私の講義のありようについて,客観的に評価頂くようにお願いした.それから,もし私がアンケートの質問内容を加えられるとしたら,「講義は楽しかったか?」と聞きたい旨を伝え,さらに裏面が最後の面がわれずにできるクレームであることも告げた(これがあったので,今日は投票用紙は回さなかった).それから,裏面へのコメントは事務の方がタイプしてくれて,コピーが私のところに届けられることも説明.結構,(余計なことを)しゃべりまくっていたかもしれない.
本来?ならば,すぐさま事務に提出すべきところを,こっそり裏面だけ眺めさせてもらいました.最終的には事務経由で連絡がくるのですけどね.そこでのコメントをこっそり抜粋.- 夏休みに質問うけつけタイムをもうけて下さい.
- 夏期補習あれば参加します....最終回の出席表はなしですか?
- 以前にここで,もしもこんなことをやれば来るかということをつぶやいたことに反応してくれたのだろう.一日くらいやりますか?
- 頑張れバッファローズ!
- 近鉄バッファローズは買い取らないんですか?(他にも一名)
- だから,これは事務の人がタイプするっていったでしょう.まずいよなー.いまから消しゴムで消しとくか...講義では近鉄の「き」の字も喋ってないのよ(いろいろと喋りたいことはあるけど,講義で価値のある話ではないし.).このページが読まれていることだと思って,うれしかったけど,事務の人はそんなことは思わないでしょうね.
(2004.09.13なんとなく追記)たまたま一年前の日記を検索していたら,こんなことを書いていた.もう近鉄がなくなるのかと思うと,悲しくてね.
(2003.9.25) 先日,ちょっとした事件が起こった.西武近鉄戦である.思えば,この対戦にはいろいろ因縁がある.私が近鉄ファンであったことから,余計に気になるのかもしれない.この2つのチームは監督が変わろうが,基板になるカラーが真向から反対である.西武の緻密な野球に対して,近鉄の豪快な野球である.その近鉄は久しく西武に勝ち越すことができなかった.西武黄金時代にトラウマのように植え付けられた感もある.近鉄が優勝を重ねていたころ,阿波野の牽制球ボーク抗議で完全に潰してしまったのが西武の井原コーチであった.一方で,後一つのアウトで優勝だという試合で,渡辺久信から逆転弾を放ったのはブライアントであった.双方のファンにとっては忘れられない出来事である.それだけ,名勝負を繰り広げているということだろうか.
しかし,今回の出来事は名勝負ではなく,事件である.9回,1点をおう西武の攻撃,主砲カブレラの打席で,近鉄は敬遠の作戦をとった.状況は緊迫している.ペナントレースは大詰めで,ダイエーがM5とない,3ゲーム差に西武が迫っている.そこから2ゲーム差に近鉄がいる.残り試合が十試合を切っているので,もはや近鉄に優勝はないであろう.西武としては一試合も負けられないところである.カブレラは左打席にたったのである.どうしても,勝負をしてほしい気持ちを 行動で表したわけだが,その行為は真剣勝負を基本とするプロ野球精神に著し く反している.ニュースに挙げられないが,これは一大事件だと思う.ペナン ト終盤にはいつもこの手の事件があるのだが,それを簡単には見逃してはなら ない.朝日の西村氏にも是非議論して頂きたい.ファンを大事にしている野球 人には許せない問題だと思うのだ.現に,レフトの守備にいたローズは猛烈に 怒っていたらしい.最近,ファンを大事にする野球人が少ないこと,というよ り,そんな報道がないことに多いに嘆く次第である.- 踊っている絵
- これが一番ウケた.この楽しげな絵はなんでしょうか.それはともかく事務の人は困るに違いない.
- 年齢不詳
- 何歳だと思う,と聞くようになったらおやじだということですよね.子供には25際だと言ってあります.
- 関西人ならば関西弁つこたらええやん.
- あれっ?関西人であることを白状したっけ.そうなんですけど,エセ関西人なんで,流暢な関西弁はできまへん.もうすぐ人生の半分を関西以外で過ごしていることにもなりますし.
- ずっと教えて下さい.
- これはダメです.いつまでも大学の教官ごときに教わり続けるようでは困ります.もうちょっとしたら,我々にいろんなことを教えるくらいになるでしょう.そうならないといけません.
- 物理というより数学だった
- そうですか.意識して数学ではないことを説明したつもりなんですが...物理は数学では決してありませんよ.
- かなり物理らしい授業だった
- そりゃそうでしょう,物理は化学や数学ではないし.と,ひねくれてないで...これは褒めてくれているのですよね.ありがとうございます.
- 秩序ある授業だなと思いました.質問は?といちいち聞いてくれるのが良かったです.気がラクになります.
- 「秩序ある」とは難しい言い方ですね.少なくとも無秩序にはならないよう努力はしたつもりです.質問が出る出ないは,クラスの個性や雰囲気かもしれませんね.これからも質問はたくさんしましょう.えーと,repeat after me. 「聞くは一時の恥,聞かぬは一生の恥」.
- この他にも,私の質問の問いかけ?に対して,多くの方が「講義楽しかった」と答えてくれて嬉しかったです.「楽しい」というのにはいろんなレベルがあって,「単純に楽しい」から,「知的好奇心を刺激される楽しい」まで千差万別で,一概にまとめられるものではありません.ただ,よく考えなくてもとりあえず楽しくて,深く考えてもそれでも楽しいと言える講義が私の目標であるので,「楽しい」はキーワードなわけです.