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統計物理学おさらい10

第10回おさらい

今日のおしながき

  • 3 統計力学の基本的な応用
      • 3-3-3 量子的調和振動子
    • 3-4 相転移と平均場近似
      • 3-4-0 相互作用の強い系
      • *3-4-1 イジングモデルと平均場近似

今日のまとめと反省

前回の続きで,量子系の調和振動子の解説からはじめる.すでに比熱の表式を求めておいたので,その性質の議論をする.結局はグラフを描いてみるということなんだが,まず高温極限の表式を求める.これは古典系と同じように定数になり,三次元の振動の問題を考えればDulong-Petitが出てくることがわかる.一方で,問題の低温では指数的に比熱がゼロになることが示される.これは部分的には望ましい結果である.つまり,古典系では比熱は定数で実験的にあわず,また熱力学第三法則とも整合していなかったわけだが,量子版では温度依存性は顕著で,絶対零度でゼロにむかい,またエントロピーも同様にゼロ になることがわかった.また,温度はいつでも\hbar\omegaでスケールされているので,例えば高温の定数からずれるところはパラメータ\omegaに依存している.つまり,物質に依存することがわかる.物質に依存しない普遍的な性質(Dulong-Petit則)と物質に依存した性質(低温でのずれ)をとらえる典型的な例になっていると思う. ところが,よいことばかりではなくて,実験的には比熱はT^3に比例してゼロになるのに対して,今回の結果は指数関数的である.残念ながら,この結果はEinsteinモデルではどうすることもできない.この様子は計算をする前にすでに気がつくことである.二準位系の比熱の振舞いと基本的には似ているわけである.絶対零度で最低エネルギー状態にすべての振動子は落ち込んでいて,温度を少し挙げたときにエネルギーがどうなるかというと,最初のエネルギーギャップを乗り越える温度エネルギーがないと,なかなかしんどいというわけである.この感じはわかるだろうか?

ではどうすればよいかというと,ほとんどどうすることもできないような気がする.しかし,諸悪の根源が有限の\omegaにあることがわかったので,そこを変更するしかないとも思える.結局,一定の振動数をもつ独立な振動子の集団だと思うことが間違いだと言うことである.そこに改良を与えたのがDebyeである.詳細は講義では説明しなかったが,どんな振動が起きているかは絵を描いて説明してみた.興味をもったら是非適当な本を読んで勉強して欲しい.

ここで前回のアンケート結果についてコメントを入れて,休憩しようと思ったが,なんだかちょっと説教モードになってしまったかもしれない.大体は前回のおさらいのところで書いたコメントを口頭で説明したような感じであった.

さて,次の話題に突入する.これまではモデルの設定をすれば,分配関数が容易に計算できた例ばかり説明してきたので,なんでもできるような気がしたかも知れない.ところが,広く一般にはそうではない.例えば,相互作用が強くて無視できない系がそうである.その状況をまず説明した.感じはわかってもらえただろうか.分配関数が正しく計算できないときに我々のとる選択は大きく3つである.そのうちの二番目をここで紹介することにする.問題は,磁石の相転移を表す最も簡単な例題である.そのモデルはイジングモデルと呼ばれている.その説明と,平均場近似について説明する.わりとゆっくりと,恒等変形を説明したけども,その意味はよく考えておいて欲しい.最後には途中に導入したスピンの期待値の決定方程式を導出した.それを解くと相転移が出てくる.中途半端だが,ここでタイムアップ.実際に解くには年明けの講義になってしまった.

今日の宿題

今日の復習をしっかりやるように

  • 量子的調和振動子のエントロピーを求め,高温極限,低温極限を調べ,その意味を考えよ..
  • 元気のある人は,Debyeモデルについて調べて,T^3が出てくるからくりをまとめよ.

配布するファイル

今日の質問

どうして比熱がゼロになるの?

上にも書いたけど,これ大事なところですね.まず,計算できて,その結果が分るというのが第一段階.それから,計算しなくてもわかる感覚を得ることが第二段階.黒板で一生懸命説明してみましたが,わかったでしょうか.是非,ゆっくりと考えてみて欲しいです.こういうのは,説明されてわかるよりも,自分でよく考えてみる方がいいですよ.ってことは,説明拒否しているようだけど,そういうわけではないです.

この和は2zになるのでは...?

平均場近似で,<ij>をほどくところの話し.一瞬たじろいだけど,最近接に関する和だと考えるとわかるはず.なーんて,ここでも「ゆっくり考えてみて」とごまかす.

今日の投票用紙の裏より

東大の(物理学系)教授になるためにはどうすれば良いですか?

よい質問ですね.そんなのがあれば私が教えて欲しい.いや,別に私は東大の教授にはなりたいとは思わないなー.

ひょっとしたら,まじめに聞いているのかな?だとすれば,質問が間違っていると思うよ.東大の教授になりたいという希望がそもそも不健全で,(よい)研究者になりたいと思うのが普通なんじゃないか.それでも,どうすれば研究者になれるかは,あんまりよくわからない.能力の問題や,性分にも関係するだろうし,運もあるだろうし...運といっても,宝くじが当る当らないのような運ではなくて,よい研究テーマにであえるとか,つかみとるタイミングをのがさないとか,選んだ研究室のボスとか研究室の仲間の善し悪しとか,引きよせるタイプの運のこと.

今日の雑談

  • 今日の投票数は, 69でした.とうとう,70人も切ってしまいましたね.たしかに,教室を見渡すと,少々寂しい気がする.これからが面白いところなんだけどなー.といっても始まらない.こころを引き留めておくだけの,度量がなかったという現実は認識しないといけない.がんばんなきゃいかんと思うのだが,こちらが力むばかりでもいけないのだろうなー.先日,ある研究会で東大の教養学部のことが話題になった.みなさんも気になるところだろうけど,今年のシンフリでは基礎科学と呼ばれる学科(物理,化学,数学,..)が軒並定員割れであったのは,おおげさに言えば衝撃的な事実であった.そこにいらした他大学の先生方にも大変驚かれた.研究会の席で話題になったことは,物理教育の重要さであった.その研究会のテーマである情報処理の分野で,今世界のオピニオンリーダの多くが物理上りの研究者である.新しい分野を切り開くのに物理の素養が大事であることを表している一つの例だと思う. それゆえに,教養学部の現実は日本の将来を憂いしまう.基礎科学に学生の興味が向いていないという事実は動かしがたい.それでも,基礎科学の大切さと面白さを学生に訴えていくのは我々の使命だと思う.一方で,役に立つ基礎科学の教育という観点から,現存のカリキュラムを変えた方がいいかもしれないとも思う.別に量子力学の難しい計算が出来なくてもよくて,その根底にある考え方が身についていて,普段の思考に現れてくればよいのだと...そんな旨味を凝集した内容で講義ができないものかと誰かが言っていたが,個人的には難しいかなーと思う.ドドーと計算した後にやっと何らかが見えて来るということもあって,そっちの方が経験上は多かったから...「そんなことは計算しなくてもわかるんだよなー」なんてカッコよいコメントができるのは,実はガリガリ計算したことのある人だけが言える特権のような気がする.
  • 先週の週末から,久々にひどいカゼを引いてしまった.完全に寝込んでしまったりしたのに,どうもスッキリしないのが一週間続いている.今回も,まだ,しゃがれた声で聞き苦しかったかも知れない.ヘンに低音が響いた感じが個人的には気にいっていたんだけどね.特にオチはありません.みなさん,カゼには気をつけて下さい.
  • さて,前回や今回の講義は個人的にはよくしゃべっているような気がしている.学生のことなんてなんにも考えないで,一人でしゃべりまくっている感もなくはないが,それほど難しくない内容に,思い付くポイントをほとんどしゃべりきっているという意味で気分はよい.それらの多くは黒板に書かれていないかもしれない.それはよくないところかもしれないって,学生にしてみたら絶対によくないな.
  • とにかく,次回は年明け.楽しい正月休みをお過ごしください.それでは,よいお年を.

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最終更新時間:2006年01月11日 12時59分29秒