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研究会HFM2006

Highly Frustrated Magnetism2006@大阪, 16-19, Aug.2006

この会議はその名のとおり,フラストレート磁性の国際会議であり,2000(カナダ),2003(フランス)と今年で三回目だそうだ.意外にも少ない.私ははじめての参加だった.こじんまりとしたワークショップのような感じかと思っていたら,参加者189名のそこそこ大きな会議であった.さらによく考えてみれば(考えなくても)私はフラストレート磁性な研究者ではないので,知っているのはスピングラス業界の人だけで,その他は知らないか,論文で名前だけを知っている人ばかりだった[1].とにかく,少しくらいは学生をスピン系に呼び込むためにも最新の話題は抑えておきたいと思って,勉強モードなのである.

acuteのなぞ
カゴメ格子はSyojiがIsingの厳密解を与えて以来,フラストレート磁性の典型例であり,Kagom\'eは世界標準である.この会議でも目方先生による,カゴメの歴史のreviewがあった.しかし,みなの疑問はどうして``me"のeにアキュートがあるのか?ということである.このせいで篭目を知らない若い学生はKagom`eはフランス語だと思っているというのはちょっとしたジョークである.結局理由は目方先生も知らないということらしい.どうして?

registration bagに篭目が入っていた.粋な計らいである.

  • (2006.11.17)追記:名工大の磯部さんからメールをアキュートについての情報を頂きました.中野先生からの情報として,Kagomeを「カゴーム」と呼ばれないために伏見先生がつけたそうです.やはり,発音の問題ですか.
Pyrochlore,パイロクロア,ぱいろくろあ
とにかく,たくさんの種類があって,フラストレーションのために秩序が出来にくくて,縮退がたまったままエネルギースケールが下がるもんだから,弱い摂動に敏感でいろんな物性が出てくる.ほんとにいろいろあるんだなーと子供のような感想しか浮かんで来ないところが素人丸出しである.理論としては,縮退を破る摂動の選択と解析ににセンスと実力が問われているのだと思う.実験としては,その美しい結晶構造に素朴に惹かれるし,出てくる物性を議論するのも魅力的である.フラストレート磁性自体は古くからあるにもかかわらず,ここ最近に盛んに研究される理由がわかる気がする.スピングラス研究とは感じの違う興味がそこにはある.
やはりプレッシャーか
HiroiさんのRattle転移の話しは初めて聞いたが,面白そうだ.話しもうまいが,話の作り方もうまいんだな.最終日にはpyrochlore系に圧力を加えてみようという実験の話があった.それも一つの摂動のかけ方ではあるが,電子系でバンド幅の調整を行うのとはちょっと違って,何が起きるかはとても非自明な気がする.実際に,圧をかけるとどうなるという一般的な性質はないようで,超伝導が出てくるようなよくみるようなものもあれば,スピングラスが出てきて訳がわからなくなったり,バラエティにさらにヴァリエーションを増やしているような感じだった.私の見方が間違っているか?
Gingras
多くの論文を読んだことのあるGingrasと初めて遭遇する.確か2次元ポッツ模型でランダム固定点を見出した話を大分前にやっていたような気がする.その論文はよく読んだ.パイロクロア系ではかなり仕事をしていて,実験にも寄与があるようである.実験のことも詳しくて渋い理論もやるのだからすごいもんだ.たびたびする質問は要領がよくて,切れる感じの研究者である.なんとなくMezardを思い出す感じ.私の話にも極めて自然な質問をしてきた.
Katzugraberといろいろ
久しぶりに対面.ここ数年彼はもうそれはそれはごちゃまんと仕事をしている.この前の論文のこともいろいろあったが,まあまあそれは忘れて,研究の話やらくだらない話やらを楽しんだ(Parallel temperingの話やkeynoteの話や...).もうこっちのネタはバラせないので,際どい話は避けながら,聞いておきたいことは聞いといた.Feedback的交換法の温度設定について議論したときに,彼らの仕事の感想を聞かれたので,素朴に批判しておいた.彼の以前の話と関係して,今後のポイントになるような話題を思い付いたが,彼と共同研究するようなことでもないし,こっちでこっそりやってしまおうと考えた,彼がやる前に.
embedded matching はなんかよいらしい
出張前のcond-matにも出ていたが,XY模型をある適当に選んだ平面に射影して,埋め込まれた部分について,matchingで基底状態を計算し,平面をGA的に最適化する複合最適化法で基底状態エネルギーの計算をしていた.結構いいらしい.しかも,GA部分はSAでは全然だめということなのだ.有限温度も埋め込み型にすると,いいことがあるだろうか.立ち話で,今後の展開について議論したが,今は二次元の特殊性をつかってMatching問題に出来ているが,三次元にしたら...parallel temperingとかを使って...などと言うので,それは交換法でしょ.とはもちろん言わないのである.有限温度版も出来るでしょうか.
横磁場でも磁場中は...
横磁場スピングラスもFisher-Huseのドロップレットの議論をすれば,有限温度相転移はないと結論できるらしい発表を聞く.正直理解できなかったが,statementはインパクトがある.SK模型の横磁場の話はあるし,実験の相図はきれいにかけていたし...と無批判に信じていたが,確かにどんな実験をやっているのかは慎重に見るべきだったです.反省.
この年になっても...
今回の研究会の発表でおそらく最年長のおじいちゃんの発表はすごかった.体調が悪いらしくて,咳こんで倒れるのではないかと心配になるくらいだった.カイラル系の臨界指数について力説されていたが,内容はそれどころではなかった.倒れてもよいと思っているような気迫がすごかった.他にも国内の有名な先生と朝食をいっしょさせてもらったときの話.同級生はすでに御引退されて,たびたびゴルフに誘われるらしい.「そんなときはね,これから研究会で出席できませんって,いやみったらしく返事するのさ」ととても楽しそうである.よい年になったら,物理をやめてもいいと思ったこともないではないが,今は彼ら先輩のように年とっても,いつまでも考え続けて行きたいと思うのである.

前半戦は修了.マウイの会議ほど多くの人と議論したわけではなかったが,研究会としてはそこそこ楽しめました.来週はICM@京都である.

  • [1]業界が違うと言えば,この業界ではexchange MCと呼ばれることが非常に多い.parallel temperingなどと呼ぶのはスピングラス業界の悪しき慣習なんだよな.なんてね.

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最終更新時間:2006年11月17日 19時14分38秒