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日本物理学会2006春

日本物理学会

2006年3月27日@松山 (松山大学,愛媛大学)

2006.1.18
まずは,予稿集(gaiyou-huku-200603.pdf(86))です.これは,昨年のパリでの会議のときにCampbellさんといろいろ議論をして,始まった研究で.臨界現象のスケーリング解析に関するとてもマニアックな提案です.「臨界現象のスケーリング変数|T-Tc|の規格化はどうするのがいいのだろうか?」というマニアックな問いに対する自然な答えを出しています.その背後にはD論のときから悩んでいた問題があり,それがある意味でスッキリした感じです.先日に阪大の谷口さんに話を聞いてもらって,実験でこれまで知られていたことをいろいろと教えてもらった.強磁性転移の臨界現象ではすでに使われている例があるとのことだった.理由はわからないものの,異常なくらいにスケーリング領域が広く見えるとのことで,それは我々の今回の結果と同じである.また,我々のスピングラス用のスケーリング変数はまだ知られていないようだった.
3月27日(初日)
一日スピングラスセッションに留まる.教室がとても寒くて,体に堪えた.発表しているときも,緊張とともに寒さで声が震えっぱなしだった.
午前:午前中はハイゼンベルグスピングラスに関する噛み合わない議論をやってしまって,盛り上がったのか盛り下がったのかよくわからなくなってしまった.我々の論文(川村さんとの)はやっぱり読まれていないのだなーと痛感する.それでも,松田君の発表はよくまとめられていたし,質疑応答も的確に反応していて,とてもよかった.結果は1月に阪大を訪れたときとは異なっていたが,それは面白い方向に転がったので修論としても楽しい物になったのではないかな.午前中で一番よかったのは,川島さんのdecimationの話.強いボンドから刈り込むというのは,一次元量子スピン系で成功した実空間繰り込み群の方法で,その結果はMigdal-Kadanoffとは異なるのかどうかが興味深い.有限次元系との比較が主だったようだが,例えばMigdal-Kadanoffの臨界指数等を比べてみたりするのがよいのではないだろうか.刈り込まれたTreeを見てみるのも面白いと思う.午前最後の佐々木さんの話(私も共著)はあいかわらず完璧なプレゼンだった.有効結合の生データから結論に至る解析方法はもう少し普及してもいいと思うんだけど,というか,みなさんにちゃんと見てもらいたいです.
午後:自分の話は,予定どおりlatex-beamerで作ったスライドを使った.この学会ではほとんどがpptで,beamerな人にはまだ出会っていない.発表は先週に中心部分と周辺のレビュー部分をばっさり削って,実質15ページに圧縮し,少々味気ない感じもしたが,実際のトークでは10分ぴったりだった.中心部分をもっとねっちり話したかったが,数値計算の結果で圧倒するしかない方針になった.それでも,西森さんや尾関さん,伊藤(のぶ)さんには受けていたように思う.個人的にはひさびさのクリーンヒット(ショートの頭上を越える感じ)な気分.もちろん,長打ではないので,本論文もきちんと書いて,さっさと忘れることにしよう.
樺島さんの話(私も共著)は,なんかあるようで,でもきっと無かった話だと思う.レプリカ法の異なる使い方というのは大袈裟かも知れないが,個人的には今後の展望も含めて面白いと思うのだが,そんな風に認識されたかどうかはよくわからない.本当ならば,私がどどーんと大きなサイズの計算をやって,うまくいけば短距離相互作用でもやってしまう予定だったが,こちらの手が回らなかった.今年の二月三月の過ごし方がうまくないと思うひとつの大きな原因はこの計算ができなかったことだ.ところで,実は今日一番の話は,尾関さんのトーク.今でも半分以上疑いを持っている,きっと本当なんだろう.q状態ゲージグラス模型で,8の倍数だけ,転移温度の降るまいが異なっている.8というのが,バグっぽいのだが,物理的に起こっても良さそうだと説明を聞くと半分は説得された.ううう.不思議.しかも,この結果は4年生の卒研で計算したのだそうで,立派である.
3月28日(二日目)
「分子シミュレーション」のシンポと非平衡セッションを行き来する.キャンセル講演は飛ばされるというルールを知らなくて,聞きたい講演を逃してしまう.熱力学積分で自由エネルギーを求めるというのは普通にされていることだが,どのくらいの精度が必要とされていて,それに答えられるのかどうかが興味のあるところだったが,そこは講演ではわからなかった.ただ,仮想ポテンシャルの入れるための内挿パラメータを7乗にするのがよいらしい.その辺りの事情はどうなんだろうか.熱力学積分以外のある意味でモダンな方法は入り込む余地があるかな.午後はずーと非平衡セッションに出る.どうもまだ不勉強でこのセッションには馴染めていない.非平衡の名が付いていても,非平衡らしくないトークがいくらかあるし,どのくらい結果を信じてよいかとか,その問題の位置づけとかがまだわかっていない.もうしばらく時間がかかりそう.
今日の成果?は,昼ごはんのときの藤堂さんとの話と,セッション終了後の伊庭さんとの議論.藤堂さんからは非常に美しい結果の話を聞かせてもらった.今回の学会では話されないようなので,ここでは書けないが,以前に安田さんとやったPRL論文の変形版の話である.伊庭さんとの議論もここには書けない.まだ,プランのレベルなので,どうなるか全く不明で,次回の学会で公表できればうれしい.
3月29日(三日目)
特別講演は失礼して,午前中は雑用をホテルでこなし,その後は道後温泉でおいしいコーヒーを飲みながら過ごす.午後から参戦.まずは川村さんのフラストレート系シンポの前振りを聞いてから,ソフトマターシンポに行く.喜多さんのLudwig-Soret効果の話と多辺さんの2次元液晶の指向性運動の話はどちらもとても面白かった.こんな非平衡現象がきれいに説明できたら,面白いだろうなーとわくわくしながら,ノートをとった.休憩中に,身近な人と雑談したが,「粉体でもできる」と言われた感想には大いに反対した.確かにミニマルな模型で同じような現象が見えることは面白いが,それて分ったと思えるかどうかはよく分らない.それは個人の考え方の問題かも知れないけど...でも,Soret係数の符号が外部変数でコントロールできることが面白いところだと思うのに,断片的に現象が再現できても,本質的なところを掴みきれていない感想だと思った.多辺さんは今度物性セミナーに呼びたいと思っている方で,たまたまシンポで話されるので聞きに来たのだが,やはり面白い話であった.時間が倍あればもっと面白く振る舞えただろうと思うと,益々物性セミナーに呼びたくなった.理論的にはマクロなGLライクな理論しかないようなので,ミクロな計算をやっても面白いかもしれない.
休憩をはさんで,フラストレートシンポにもどる.あいかわらず,凄い人で壁際にすわるのがやっただった.シンポジウムとしては,はっきりいって盛り上がっていなかった.フラストレーションをキーワードに集まってみたものの,個々の物性論の成果を発表しただけで,集まることのメリットがあったかどうかよくわからなかった.フラストレーションが貯まると,どこかに他の自由度があればババを押しつけるんでしょ!という以上のものが無かった.それでいいのかもしれないけど,シンポジウムとして今後の目指して行く方向とか共通に認識とかを議論できればいいと思うのだけど,それは無かった.偉い先生の心の中では成立していたのかもしれないけど.
個人的には谷口さんの結果はとても気になっていた.初日にあったポスターは完全に自分の発表の裏で聞き損ねたし,シンポの直前に谷口さんに「カスプが出た!」と一言予告を聞いたこともあった.プレゼンはとても慎重でいろいろ気くばりされているのが感じられた.最後のデルタの評価は「カイラル機構支持」と思っていいのでしょうかね?今日の目当ては最後の廣田さんのリラクサーの話だったのだが,廣田さんの話もそうだが,その前の有馬さんの話はクリアで勉強になった.貯まったフラストレーションを磁性と構造のどちらにババを押しつけるかは,後からの解釈になっているように聞こえたので少々消化不良だった.順番はエネルギースケールで決まっているのだろうけど,その辺りの感覚がないのでよくわからなかった.このシンポがこんなに人が一杯である理由はよくわからないけど,少なくとも面白さを理解するのはソフトマターシンポよりも断然難しくて,でもしかしこのくらいはついて行きたいと強く思った一日でした.
3月30日(四日目)
今日はいろいろと面白そうな話題が並行にあるので,体が一つでは足りない.最初は,これを聞くのはどうかとても迷ったが,その「ニセ科学」に出た.妻にアエラに載った記事を見せて議論をしたことがあったが,なかなか論破できなかった.どうしたものかと思い,やはり出てみることにした.菊池さんの話と天羽さんの話の途中まで聞いたが,どうしていいのかよくわからない難しい問題だと思った.結局小さなことからコツコツとであって,教育にも深く関係している.会場にはたびたび笑いが起こったりしたが,正直なところ私は笑えなかった.それにしても,大きな教室が一杯であり,関心の高さは凄い.
暗くなりそうになったので,次の会場へ出向く.確率過程にコロイドにガラスに磁性とほとんど一講演単位で動きまわったが,発表者で選んだのではなくて,講演タイトルで選んだので,当たり外れが大きかった.動きまわったわりには収穫が少ない.領域11にじっとしていればよかった.午後は「情報統計」に顔を出して,飛行機の時間に合わせて会場を後にした.田中利さんはやはりbeamerだった.私がbeamerにFoiltexから乗り換えたきっかけは彼のプレゼンだった.マニュアルが分厚くてまだ機能を理解していないが,今後スキルアップさせて行く予定.さて,羽田で飛行機を降りるときに,Huさんに自分の話を説明するチャンスがあった.野々村さん経由で講演の内容が伝わっていたとのこと.自分は宣伝下手なのだが,頑張って宣伝しておいた.

一年ぶりの学会だったが,昨年ほど大きく盛り上がることはなかった.会場の場所があまりにも散在しすぎていて,知合いに衝突する確率が低くて,会場の外でおしゃべるする時間がすくなかったような気がする.今年は秋の学会にも参加予定なので,また次には盛り上がるようにがんばろう.

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最終更新時間:2006年08月27日 10時02分15秒