期末試験
試験問題について
- 全体としての出来は,結構よかったと思います.みなさん,よくがんばったんだと思います.
- どうだったでしょうか?解答用紙が足らないという人がいました.紙はもったいないので,コンパクトに書きましょう.とはいえ,全体として,問題の量は多かったかも知れません.何も迷うことなく,すらすら書いても小一時間位かかるかも...
- 間違い探し問題を4つ付けました.間違いを指摘しただけでは,答えにはなりません.その理由を説明することが目的です.
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なんだか,禅問答のような問題でした.これが一番最初の問題で,一番難しかったかも知れません.ヒントをつけたので,気付いた学生さんもちゃんといました.答えは,導体同士なので,静電誘導が起きて,引力が出て来る可能性があることを指摘すればOKです.例えば,絵を書くとこんな感じか.
その他にも,二番の問題を見て,ひらめいた人もいたようで,例えば,球殻導体でくるむと,電場を感じない,つまり反発でなくて,力がゼロになると答えた人もOKにしました.これも,実は誘導電荷との引力が働いていて,合力がゼロになるのケースです.一方で,とてもとても重いと,万有引力がクーロン力に勝って,引力になるというのがありましたが,これはダメ.「クーロン力は反発力だけ」ということの反例ではない.それから,クーロンの法則は点電荷に対する法則だから,広がりをもった帯電体には適用できないというのは,うーん,苦しかったことはわかりますが,いけません.
- 「導体中は電場はない」とある参考書に書かれていて,それはヒドイという話しを講義でしました.例えば,電流はなんで流れるのかを考えてみようということでした.外から導体に電場を掛けたときに,見掛け上は無いように見えるという解答が幾つかありました.本当にありません.自分が電荷をもって,導体の中にとびこんでみたとしよう.どっからも,見掛け上でもなんでも惹かれないとすれば,それは電場がないと思うでしょう.
- 静電容量の定義を思い出せば,どこが違うかは指摘できます.
- 間違い探しなので,引力でなくて,斥力なのはあたりまえです.その理由を説明してください,というのが問題の意図です.でも,これは考えてみれば,どこから答えるかは難しい問題かもしれません.「フクシマンの法則で斥力が働く.」という謎の法則から説明した気になるのはダメですね.講義でやった話しを思い起こせば,電流が磁場をつくって,それをローレンツ力で感じると言うストーリが書けていればOKです.フレミングの法則でもよいことにしました.しかし,フレミングの法則については,ちょっと文句あり.
- 二番目は電場と電位を求める問題で,レポートに出した問題ととても似ている.
- 問題設定は,一様に帯電した球のつくる電場を求めようということです.動径方向しかないことは問題文で述べていた.中心からの距離の関数として,グラフに書いてもらった.「電荷はどこに分布していますか?」という質問をされたが,さすがにそれには答えられない.この帯電球を導体と解釈してしまった学生さんがいた.それは減点.その他にも,解答全体に渡って,太字はベクトルと解釈し,ベクトル=スカラーという解答は一様に減点した.
- その時の電位を求めてみようという問題.上の問題で電場を正しく積分した人にはそれ以上減点はしていない(業界用語で,ひきずりを認めるというらしい).上と同様にグラフを書いてもらう.減点付近では-r^2に比例するが,その曲率が間違っているひとは減点.
- それを今度は導体球殻で囲ってみた.導体球殻のところでゼロになる以外は(a)と同じである.ここではひきずりは認めずに,各領域とグラフに対して部分点を配った.導体で囲ったので,その外側で電場がないとしたのは,静電遮蔽の言葉が独り歩きしている感じがします.ちょっとミスリードしたのかなとも思うのですが,そもそもどうして遮蔽しているのかを考え直してみれば,そのような答えには至らないはず.次の問題とも関係しています.何が起きているのかをよく考えてみて.
- その導体球殻の電荷分布の様子答えてもらう.ガウスの法則と対称性から完全に様子はわかる.ポイントは,一様に分布していること,内側に負電荷,外側に正電荷が誘起されていること,それぞれの電荷量は球内の電荷量と等しいこと,また全体で電荷はないことが述べられる必要がある.
- ソレノイドコイルの話しを講義でゆっくりやりました.それをじっくりと再現してもらいました.まず,ビオーサバールの法則から,磁場はソレノイドコイルに平行方向しかないことがわかる.それについて,言及している解答はほとんどなかった.その点についてはおまけすることにした.
- まずはソレノイドコイルの外側で磁場がないことを示す.これは意外に難しかった.アンペールの法則だけからでは最後までいけないので,何かを足さなければならない.あっち向きの電流とこっち向きの電流の寄与がキャンセルするというのは,正しいですが,説明不足です.部分点にしました.考えてみれば,距離が違うので,単純にキャンセルされるかどうかは自明ではないと思います.ちょっと考えると,不思議ですね.その不思議に気付いて?ソレノイドの太さに比べて,遠くから見るとその距離の違いは無視できると答えていた解答がありました.いろいろ考えていてよいです.でも,その場合は,コイルのすぐそばはキャンセルされないことになります.答えはそうではないので,結構不思議です(よね).
- 内側の磁場の方向は,右ねじの方向から分かる.でも,右ねじの法則とか,右手の法則とかは本当は無いですからね.便宜上,中学校で教えているだけです.何かしら便利な規則を見付けただけなので,右ねじの規則のように呼んで欲しいところです.ニュートンの法則と右手の法則が同じレベルで説明されるのは,かなり抵抗があります.
- 内部で場所に依存しないことを示すには,アンペールの法則を使うことが一番簡単です.(a)とほとんど同じ議論で示せます.アンペールのループを動かしても議論が変わらないと最後にダメを押して欲しいところです.そうでないと,何か特別に選んだループの右と左だけが同じなのかもしれませんから...しかし,講義でも言いましたが,私の勝手な表記のせいでB右のように添字に日本語を書いている解答が結構ありました.そっ,それは一般的ではないですからね.気をつけて下さい.密かに広めてもいいですけど...私の同期性が(裏)卒業論文で全ての添字を日本語にしていましたが,とても見にくかったです.
- そこで,その場所によらない磁場の大きさを求めてみました.
- 最後に,ソレノイドコイルに働く力を議論しました.一つは,内部の磁場と接している導線へのローレンツ力があります.これはコイルを広げる方向ですね.これは問題文に書いていなかったです.その他に,コイルが有限だとすると,その端から洩れている磁場を感じて,コイルを縮める方向に力が掛かります.
4番の解答より
4番では最後に講義へのコメントを書いてもらいました.これまでにレポートでも書いてもらったので,いまさらな感じがしますが,最後のこのコメントは私の手元に残るものです.来学期以降の私の担当講義をよくするために参考にさせて頂きます.なので,「単位下さい」とかは見ないことにしています.せっかくコメント頂いたので,ちょっと気になるコメントを抜粋して,返答を記します.が,徐々に書き足していきたいと思います.
- テストの一番はイジメだと思います.
- ウシシシッ.
- 一応は授業にでたんですが.....ウダウダ...(中略)全然授業でないでさらっと勉強して単位とる頭よい奴がいるよこで,...試験対策してもおちていくアホな奴がいるこの現状を時々でいいもで思いだしてください....
- 嫌でもこの時期になると思い出しますので,ご心配無く....それで,どうしたいの?
まず,自分のことを頭悪いとおっしゃるその謙虚さはいつまで忘れないで下さい.それと同時に,東京大学に合格したのですから,そういうウダウダは通用しないこともね.さらに,頭が悪いのならば,その「頭のよい奴」の二倍でも三倍でも,いや十倍でも時間を掛ければいいのではないでしょうか.少なくとも私はそうやってここまで来たつもりです.要領よいのも一つの「花」ですが,それだけの花は世の中に一つだけじゃなくて,もうそれはそれはごちゃまんと吐いて捨てる程あります.そうではない,何か一つしかない「花」になれるようがんばって下さい.そのためには,人と同じだけの,あるいは数倍くらいの時間では足りないかもしれません.
- 不可っていないといいと思う.
- うーん,なつかしい.このクラスはこの言葉からはじまったような感じでした.
- ...最近,やっとHPをみたら,なんだかけっこうおもしろくて,雑談のところばっかりよんじゃいました...
- うっ,百害あって一利なしか?
- (すごく簡単に要約すると)大学の講義はそれでいいのか!
- 前にも少しだけ講義と授業の違いにつて書いたような気がします.授業とはまさに字のとおり,教え授けることだと思います.その意味で,小中高校は授業だと思います.講義はそうではなくて,何かしら意味や解釈を講ずることです.教えることではありません.大学で行うべきは,講義であると私は思っています.私が物理学者(の端くれ)としてもっている何かを若い学生に講ずる場だと思うんです.しかーし,先日大学から配られたのは,「授業アンケート」なんです.東京大学は授業をしているつもりなんです.
それではこのシリーズの授業では何を教えればいいのでしょうか.形式的にはシラバスに書かれている内容を教えるわけです.この意味では,授業ではシラバスの内容からはかなりずれていて,簡単なところだけをやったような感じです.
コメントの趣旨は,こんな簡単なことばっかり教えていて,それが大学でやることなんか?というツッコミだとすれば,確かにそのとおりです.シラバスに書かれている内容なんて,電磁気の教科書読めばどこにだって書かれているわけで...下につづく...
今日の雑談:
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(2004.2.16)ほとんど以下は愚痴です.いやー,講義を3つ担当することの本当の意味をシミジミと感じました.今回の試験の採点は,(数えなきゃいいのに)230強です.単純作業は訓練によってみがかれるもので,自分にはそれが備わっていて,しかもそれほど苦痛ではないと思っていました.今回ばかりはそうではないようです.大学のころアルバイトで,ひたすらに乾電池に値札を張り付けていた経験がここでは全く生きません.採点は単純作業ではないですからね.
- (上のつづき(ほとんどまとまりがない...))一方で,シラバスを越えて,特殊相対論とかやればいいのかというと,それはそうではないと思うんです.
特に,教養としての意味があるとすれば(何か口調が弱いか..),物理の考え方,もっと広く言えば自然科学に対する考え方を身につけるということなんだと思います.何も沢山の法則を覚えることが物理ではありません.それではあんまり面白くないじゃないか.どういう体系で自然を記述している(つもりになっている)かが大事なんだと思います.あちこちにころがっている自然に対する素朴な疑問の答えを探そうとすることが物理なんだと思うし,それは本当は小さいころから持っている感覚なんだと思う.私がいっても説得力がないけど,「物理が嫌い」っていう人でもそういう感覚が嫌いなわけではないと思うんだけどな,きっと.こういう感覚を思い出したり,疑問に答える道具について,授業のシラバスの内容を通じて,私の講義で伝えられればいいなと思っています.
- 試験は最後の講義だと私は思っています.テストという意味合いが強いのですが,それでも同時に,問題を通じて何かを考えるきっかけになればよいです.今回の試験問題は,ほとんど計算問題はなく,いろいろ記述してもらいました.計算は計算機がやればいいですが,その場合でも何を計算させるかは人間がちゃんとわかっていないといけませんから.
- さて,今シリーズは私にとって最初のBクラス担当でした.とてもよい経験になりました.イマイチだったところもたくさんあり,いろいろ反省しています.それでも,予想以上にみなさんがんばっていたと思います.正直に言って,これほど食いつきのいい学生さんはこれまでにいませんでした(もっとも,大学院生は別です.大学院の講義は食べられていしまうくらい食いついてくるのが普通です).金曜の一限でもそれなりに来たましたし,質問もソコソコでていましたしね.それから,素朴な疑問を沢山持つことはいいことです.これからもそれはつづけて下さい.
それから,単位に縛られなくなった今,もしまた物理の本(ファインマンとか)をパラパラと開くことがあったとしたら...それは大学生ってことでしょうか.
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Koji Hukushima (hukusima@phys.c.u-tokyo.ac.jp)