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STATPHYS24

STATPHYS24@Cairns,7/19--23, 2010

3年に一度の統計力学国際会議がオーストラリアのCairnsで開かれ,そこへ参加してきた.初の南半球であり,ちょうど梅雨明けて猛暑へ突入の日本から抜け出せてよかった.簡単に研究会報告をしよう.といっても,いつものように?裏日記から表へ出してよさそうな部分を抜粋することにする.

前日のレセプション

時差がないのも必ずしもよいことばかりではない.飛行機でよく眠れないままに,翌朝早朝からふつうに一日が始まるので,頭が回らない.今回の出張では物理のこともそうだが,いろいろと文明の利器を教えてもらった.その一つ,ノイズキャンセルのヘッドホーン.そんなものは,音楽マニアのおもちゃだと思っていたが,飛行機で寝るにはもってこいとのことだ.うらやましい.それはよいとして,レセプションで何人かの人とお話できた.いよいよ始まる感が盛り上がってきた.

初日

特にオープニングセッションが用意されているわけではないが,普通にplenaryトークから会議が始まった.Sachdevのtalkをゆっくりと聞くのは初めてかな.プレナリー用のトークらしい感じで,わかりやすかった.物理の人たちもこういうトークをするようになったのだなーと,変な感想をもってしまう.ここまでAdS/CFTの話がきていた.最後には練習問題として,スピングラスのSK模型に触れていた.きっと触れていただけなんだと思うが,Parisi先生はちゃんと反応していてい,答えられないような質問をしていた.そうだよねー.

午前
セッションに分かれて,ガラスへ.Sri Shastryは有限サイズスケーリングを丁寧にやっていた.長さが捉えられると,そういう方向に行くのはとても自然.ただ,その長さをどうやって決めていたのかはよくわからなかった.あまりにきちんと決められるんだと,二次転移と同じように見えるので,そう簡単ではないはずで,でも,\chi_4のピークとかそんなではないような….また業界標準から取り残されている気がする.Mooreの話は,少し前のPRL論文のはなし.テクニカルな部分はついていけなかったが,繰り込み群の方程式をつくるときに,ちらったとみせたKAS形式の式がMonassonの秩序変数と同じような形式だったので,少し驚いた.形式的にすべての自由度を追いかけられたら,RSBだろうがなんだろうが構わないだろうけど,一番簡単なところしかみないとそれはRSになってしまうはず.どこまで状況がfixできているのかを確認するために?,あとでKatzgraberとおしゃべり.やっぱりギリギリのところは難しいと理解.Mooreさんも混じったので,関連する話題として最近のKawamuraグループの仕事を議論.chiralityも難しい.後半は,イジング模型を用いた多体問題の研究がいくつかあった.ちょっと面白そうなのがあったので,帰ってから追いかけてみたい.一つは, Casimia 力の問題で,これはもうほとんどやり尽くされているのだろうと思った.もう一つは。。。
午後
ポスター発表.旅行に行ったら,日本人とは話したくないのと同じように、ポスター発表で日本の人のところにはいかないのは,なんとなく礼儀??かと思って、フラフラする.自分のポスター発表でもあったので,それほどふらふらできず.目の前の,Weitさんとはおしゃべり.午後の後半は講演セッションをふらふらする.Liグループのthermal diodeの最近の進展を聞く.部品はどんどん増えていて,thermal トランジスターまで着ていた.Physics todayにも取り上げているらしく,thermal deviceでコンピュータもできる?!ということらしい.これだから物理屋は面白いと思う.役に立つことなんて二の次なんだろう.

2日目

午前中
プレナリーはCateから. バクテリアの物理に統計力学はいるのか?という問いに,私はよくわからなかった.どういう意味での統計力学かを考えないと,そもそも問いがわからないが,やっぱり,最後にDauchotの聞いたように,多体効果としての相互作用がどう表せるかが大事だと思う.石ころでよいのか,せいぜい大域的な結合があるくらいなのか,とても非自明なフィードバック相互作用があるのか。。。一般セッションでは,Berthierのきれいなデータに少々感動し,Sherringtonのオーラに圧倒される.Sherringtonのはなしは、Martensiteの問題では,すこし前に,面白そうな問題だと思っていたんだけど,まったく手をつけないままに,海の向こうでは進んでしまった.もちろん,すべて分かったわけではないけども,STATPHYSでSherringtonが講演してしまったら,あちこちで研究が出てくるだろうなーということ.この問題は,いわゆる形状記憶合金の話で,その昔結晶の配列相転移として,Potts模型をもちいた研究がされていたが,まだまだミクロ状態とマクロな記憶現象の関係が解きほぐされた感じはしなかった.その後,第一原理計算も進んでミクロ側が抑えられるようになると,かえって統計力学的研究は止まってしまった感じがしていた.そのあたりは面白いのではないかなーと思っていたんだけどねー.午前の後半は,Inherent structure上の有効理論とか,rate 方程式のreductionとか,昔からある話の最近の進展についていくつか聞く.
午後
ポスターをみてまわるが,あまりピンとこなくて,おしゃべり.その後,Baxterのプレナリーを聴きにいく.一般セッションではたまたま入ったところで,Bittnerさんを見つける.Make life simpleというPRL論文を書いた人だ.Paralle temperingの性質について,すぐに交換をかけるよりもちょっとまった方がよいということなんだけど,にわかには信じられなくて、放置していた論文だった.主張はわかったが,本当に理解すべき問題について,お茶の時間にも捕まえて,質問する.やはり,独立性の確保が大事という結論に日本に帰ってきてから至った.聞けば、佐々木さんなんかは気づいていたということらしい.うーん,甘かったなー.それでも,効率との兼ね合いもあるだろうから,実際にどうするのが賢いかは個別の問題としては自明ではない。。。と思う.立ち話が長引いて,セッションにもどりのが遅れる.後は印象に残っているのは,Indekueさんの濡れ転移の話.微視的な研究ももちろん一杯されているのだろうけど,そことの関係は見えなかった.このあたりも知らないことが多い.本日の最後は,なんといっても,夜8時からのC.N.Yangの特別講演.お元気だ.

3日目

折り返し日

午前中
まず二つのプレナリートーク.最初は,Ketterle.初めてお目にかかる.実験の大御所として,大ボスなイメージを抱いていたが,全くそんなことはなく,絵に描いたような真摯な物理学者だった.量子気体の磁性秩序を実現するために,さらなる低温を目指して最先端の技術とスキルを追求している熱いものを感じた.本日のメインはBoltzmannメダルの受賞講演で,今回はCardyとDerrida.CardyはパリのSTATPHYSのときに,プレナリーか何かでの講演が印象的だった.その時は一次転移へのランダムネスの影響をCFTで解析する話だった.前回では量子エンタグルメントエントロピーの話をプレナリーで話して,今回は受賞講演と.すごいもんです.Stefan-Boltzmannの話から始めるあたりも渋い.Derridaは,なんというか,もう私にとっては教科書の人だったのだが,まだお若そうで驚いた.講演ではGarderの話もでてきた.とにかく,おめでとうございます.
午後
エクスカージョンの日なのだが,来る前には気分が乗らなかったので,ホテルに帰って,山積している案件をこなす.といっても,内容は物理なので,少し楽しみながら進めた.

4日目

国内の学会とはちがって,寝ても覚めても統計力学の話題しかないので,何というか,どっぷりと浸っている感じで気分がよい.ただ,日記を書くのは飽きて来た.

午前
今回の会議で一番面白かったのは,Dauchotの話.振動を与えた板の上に,丸いコマを沢山ならべるのだけど,そこにはちょっと細工がされていて,ある方向に進みやすい指向性が仕込まれている.沢山のコマが衝突によってのみ相互作用したときに何が起きるのか?というのが実験.どうも集団運動がでそうだということ.境界条件は大事のようで,そこで一つの長さのスケールが入っているようだが,詳細な原理は不明とのことだった.こんな実験されたらほんとうにしびれるなー.サクレーに行ったときにも二次元粉体の実験を見せてもらったけど,こうしたテーブルトップの面白い実験も,低温実験と同じくらい興味深くて,この会議にふさわしいと思った.午前後半はスピングラスの話がいくつか.ZhouさんやJANUSグループ.
雑談
昼休みには,MachtaさんとPopulation annealingについて議論する.以前に伊庭さんとやった(全然めだたない)仕事を最近見つけてくれて,いくつか数値実験をしていたのを,会議に来る前に知って,直接会っていろいろ情報交換する.少し,やる気がでてきた.ポスターセッションには何人かの人と雑談.P.Youngとも少し話をする.午後の後半のセッションで,諏訪くんの話を聞いたんだが,なかなかかっこよかった.

5日目

最終日
西森さんのプレナリーからこの日ははじまる.量子アニーリングに関する話題で,なかなか味わいのある講演だったと思う.私は実用的な観点からあんまり量子アニーリングは好きではないのだけど,原理的な問題としては面白い.その後は,Mezardの招待講演.量子系へのCavity法の展開.これはまた日本で昔にやられてきたことが現代的な切り口で見直されていることになっていないかなー.午後にはFisherのプレナリーがあった.今回の一番の楽しみは実は彼の講演であったのだが,いやー,シャウトする英語がまったく耳に入ってこなかった.これは私の問題で,ちょっと残念(自分に).Cavagnaの講演も聞く.スマートな講演だった.いろいろと考えさせられるところはある.ちょっと渋い話として,位相空間のサドル構造と相転移の関係に関するある予想についての講演があった.証明は難しいらしくて,長距離相互作用系での解析的な研究がメインらしいが,数値実験も含めていろいろとつつくところがありそうな気がする.これは卒論や修論でするのはマニアックすぎるが,いずれ手をつけてみたい話題である.

せっかく赤道よりも南に来たのに,南十字星を見逃した.時差もなければ,コリオリ力の違いも感じないし,南半球を堪能することはなかったが,会議はしっかりと楽しんできた.あっという間の5日間だった.この会議は大きくて,お祭りみたいなもので,実質的な討論をするならば,もう少し小さい方がよい.一方で,現在のこの分野の動向を知る意味では大事な会議だと思う.オーストラリアは地理的には,どの国からも遠く,その影響もあってか参加者は500名程度に止まった.前回のイタリアは1500名くらいと記憶しているので,かなり減っている.次回は,ソウルに決まったらしい.アジアでは日本ではないのだなー.それにしても,今回は韓国のパワーを感じる.


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最終更新時間:2010年07月27日 22時04分53秒