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Deep Computation in STATPHYS

Deep Computation in Statistical Physics@Santa Fe

今年はSTATPHYSがある年で、それにも出たかったんだけど、そのすぐ後に北大でサテライトがあって、そしてこの会議があるので、ちょっと遠慮した.この会議の招待は一月くらいにやってきて、とても面白そうだということと,Scopeにirreversible MCMCが触れられていて、様子を探るには持って来いかと思った.Jon MachtaさんがPopulation annealingを使ってくれていることもあり、呼んでくれたのかなと思う.Santa Feには数年前に行ったことがあったが、Santa Fe Instituteには行ったことがなかったので、その興味もあった.金子さんや池上さんが滞在したその雰囲気を感じてみたかったし、私はまだちゃんと読んではいないが、若もの?に話題のNature of Computationの著者二人がOrganizarでもある.サンタフェの青い空も見たかったことだし.

今は帰路の途中.記憶が新しいうちに感じたことをまとめておきたい.こんなメンバーで,総じて楽しい研究会だった.うーん、うまく表現できないが,とても面白かった.お土産(研究上)も一杯だ.

Santa Fe Institute

最初に、今回の会議の会場であるサンタフェ研究所と会議について驚いたことを3つまとめたい.

自由な雰囲気

とにかく、研究所の中が自由な感じで、オープンスペースがいっぱい.ゲームも転がっているし、何より窓ガラスで議論していいらしく、落書きが一杯.ホワイトボードは用意しないといけないけど、窓はそこらじゅう窓ですからね.こもって研究したい自分のようなタイプは落ち着かなくて好きになれないかもしれないけど,おそらくプロ集団が集まって新しいものを産み出すには相応しい場所なんじゃないかと思った.素人が集まってもお茶飲み話にしかならないんだと思う.まあ、とにかく16号館の一階の誰も見ないポスター掲示板は全て撤収して、ロビーとホワイトボードとコーヒーメーカーを置きましょう!>専攻長.昼食後や講義後にそこらへんで戯れているだけで,いろんな人と議論できる雰囲気にしたいですね.

undisciplined scienceな雰囲気

undisciplined scienceとはサンタフェ研究所の標語募集で入賞した言葉らしい.赤いTシャツを売っていた.出典は下に述べることにして,カッコイイ言葉です.もうinter-disciplineの時代ではないんです.後期課程の学科の名前を決めるときに知っていたら、department of undisciplined and integrated scienceにしたのに...会議では統計力学が中心ではあったものの、数学や情報理論は普通に交わっていて、なんか自然な感じでした.

研究者とジャーナリスト

もう一つ驚いたことは、会議の中で、Scientific AmericaのBrian Hayesが講演したということ.内容は後でもふれることとして、彼は科学者というより科学ジャーナリストである.その彼が普通に会議にいて、普通に会議で質問して、普通に会議で講演して、普通にchairしていたのである.日本だと考えられない.素晴らしい文化がそこにあるのだと思った.少し話をさせてもらったが,非常に面白い人だった.彼のような人に話を聞いてもらえるのは貴重な体験だった.undisciplined scienceは彼のレポートで出てきた言葉である.そして、彼の講演はMarkov chainに関する歴史であった.

Non-reversible MCMC

Suwa-Todoに刺激をされて,酒井くんが興味を持ってくれたので実質的に始まった研究だけど,まあそこそこポイントを作れているような気がしている.skew detailed balanceが一つのキーになっていると思うが、もう少し一般的に位相空間を増やしておいて、掻き回すというのがうまく行くかもしれない一つの戦略だということはおそらく共通の認識かと思う(そんな共通認識はいらないようにも思う).今回は、skew detailed balanceの提唱者の一人である、Marija Vuceljaさんがやってきていて、私とKrauthさんでセッションが組まれた.その後に、Tom Hayesによる数学からの進展も絡まって非常に勉強になった.Vueljaさんは東欧美人のポスドクで、立ち振る舞いもめちゃくちゃかっこいい.いろんな意味でもっとも絡みにくい苦手なタイプ.ここで実がないのは仕方がないと考えていたが,帰りのシャトルから空港での議論で急速に盛り上がり,今後の展開が楽しみ.Krauthさんはこれまた映画俳優かと思うばかりのイケメン.ピポッドアルゴリズムとかいろいろ考えている人で今回は粒子系のnon-reversible MCMCの話をしていた.最終日の朝にちょっとk-mer問題の話を振ってみたら、めちゃくちゃうけた.ある状況だとうまいサンプリングアルゴリズムができると、お昼休みには絵を描いて説明してくれた.この辺りの回転の早さは驚くばかり、セッション中も彼はちゃんと質問していたような気がしたけど...

このk-mer問題はプロ向けの渋いけど、結構なんか統計物理屋の琴線に触れる古典的問題な気がする.渋いというのがポイントで万人に受けるわけではないけど,渋く受けるのだ.パリで話したときにはあとからMezard先生に何か変な秩序はないのかと突っ込まれ、宮崎さんには問題の素朴さを褒めてもらったような気がした.6月に学習院で数物セミナーしたとき、セミナーでは一切ふれなかったが、夜のセッションで田崎さんとおしゃべりして盛り上がったのはこの話題.数理物理的に長距離秩序の存在証明が最近でたときに、謝辞にH.Tasakiの名前があって、どういうことなんだと聞いて見たところ、ちょっとした裏話がでてきた.この系はリエントラント転移が起こるがその機構はDharさんが見事に説明している.Krauthさんにも朝のバスの中で説明する...というか,状況を説明するとすぐにエントロピーが効いていることを理解される.こういうところが統計力学のプロなんだよなー.個人的に高密度液体相の存在を明らかにしたいのだが,さすがに交換法でも厳しくて,新アルゴリズムに期待.

  • どうでもよいことですが,最近は学会に行くと圧倒的にMac air派が多い.今回もそう.それで数少ないLinuxerが私とKrauthさんだった.そういう意味でもなんとなく惹かれるところがある.あまりにもMac派が多いので、ご飯のときに、なんでこんなにみんなMacなのかね?ととなりに座ったポスドクに聞いてみたら、「Why not?」だって.思わずプチッと来て,「理由は簡単だ.みんな使ってるから.」猿真似はしない!。。。この英語は出てこなかったけど、その雰囲気は出ちゃったようで、空気が悪くなった...

そうそう自分の講演でPeskunの定理の話をしたのはちょっと受けていた.受けたというか,数学の人もいたので、何を目指すべきかみたいな話をしたのがよかったのかな.KrauthさんとMooreさんら質問をされて、しかもMooreさんからは、その規準は我々のやりたいことではないと指摘され、なるほど納得.でも数学的に攻めるにはこれが簡単ということで理解.

VueljaさんとTomの話に出てきたのはLiftingという技法.もともとはNealらの論文のアイデアのようだけど、聞いてみると非常に当たり前で、でもサンプリングに使えるのかどうかは自明ではない感じ.Nealら統計学者?による有限離散状態モデルの一様サンプリングの解析はなんかおもちゃ臭くて...と思っている辺りが私の浅はかなところかと、今回のTomの講演で痛感した.mixing timeのオーダーが変わったっていっても、そんな簡単なモデルじゃーなーと思っていたのだけど、一様分布でなくてどんな分布まで一般化できるかを議論していて、多峰になるとダメらしい.それが一次元イジングと二次元の差か?!というキラーコメントがCrisから飛び出る.実は私のデータを良く見ると、二次元は完全にファクターまで潰れてしまっていて、三次元はファクターのgainはのこっている.それは転移温度直上である.秩序変数の臨界温度での分布関数が二次元で二山で三次元で一山になっていて,磁化の一変数にくりこむと何が起きるかを全て踏まえた上でのコメントだとしたら、ちょっと痺れる.そんな奴いるか...いるよね、この業界には.

スピングラスセッション

KatzgraberとMiddletonがスピングラスの話をする.Katzgraberは札幌でも会ったのだが、激ヤセしていて本人とは気づかなかった.彼の話はいつでも上手い.今回は低温相でRSB的ではないことを主張していた.そのデータでRSBだと言っていたのは10年前で,結論はグレーだが,そんな見方もあるのかと勉強になる.ますます、有限次元系でRSBなんて生き残らない感じがする.もっとも彼のメッセージの一つはサンプル平均した後ではなくて、分布そのものをちゃんと見るべきだということ.まったく賛成なんだけど,分布関数を見る我々の目はそれほどこえていないので,今後は訓練も含めて見方の確立が望まれる.Middletonは二次元スピングラスの基底状態も含めた数値的厳密計算の話.なんどか見たことはあったが、話したのは今回が初めてかも.私の好きなタイプの研究者.分配関数が、2.000000000840000000017400000とか見せて、これが第一励起状態で、ここが第二励起状態とか言っていて、数字から物理が見える人だ?!と不思議に思っていたら、周りもそう思っていたらしく、お昼ご飯のときにみんなで突っ込んでいた.そしたら、うれしそうにPCを広げて、そのからくりを説明してくれたが、至ってシンプル.非常に低温なので、低温展開したと思えば,係数込みの第一励起状態と第二励起とが分離して見えますということ.当たり前だけど,面白い.晩ご飯のときには,比熱の励起が2Jに見える問題を議論.というかちょっと絡んでみた.普通は4Jしかないのだけどランダム平均すると平均的な2Jのスロープが見えるというわけだが、じゃー3Jでも2.5Jでもよかったんじゃないの?というのが私のツッコミ.それは簡単には否定できません.しかし、こんなマニアックな問題を知っていること自体渋すぎる.でもちゃんと理解しようと考える人がいることはうれしい.

Markov chainの歴史

初日の最後にBrain HayesによるMarkov chainの歴史の話があった. すでにScientific Americaには記事になっているようだ.2013年はMarkov chain 100周年らしい.もっともご本人が言うように、どこから数えるのかは難しいらしい.誰が最初にMarkov chainと言ったとか...この1913年はMarkovの論文が出た年らしい. 今ではMarkov chain Monte Carlo法の基礎にもなっていると知られているMarkov chainだけど,当初は大数の法則を相関のある場合に拡張するために導入されたらしい.確かに情報理論の教科書にはそのように導入されている.さらに、Markovのスーパーバイザーはチェビシェフらしい.なんともすごい組み合わせだ.講演では,簡単なMarkov chainの例から出発して、ロシア数学の歴史と主流派vs反主流派論争、計算機の発達に伴うMCMCへの展開の話.まったく飽きることなく一時間が過ぎる.この講演はコロキウムになっていて、所内から?いろんな人が集まってきた.結構年配の方から若い人まで.最後のMCMCのところではMetropolis et al 論文の中には一言もMarkov chainという言葉はないと指摘されていた.その部分は多くの物理学者は知っていることではないだろうか?しばらくの間、物理学者はMCMCなどという言葉は使わなかった.Rosenburushのロスアラモスでのプレプリントを見る機会があった.これはモンテカルロ法50周年の会議録にも再録されたもので、メトロポリスのモンテカルロ法の正当性の議論が丁寧にされている.それを以前に大学院の講義で説明したことがある.統計物理の重要論文を一コマ一論文で紹介する講義のモンテカルロ法のときであった.Markov chainの収束証明のように一般的にきれいに証明するのではなくて、マスター方程式から出発して、詳細釣り合い条件を用いて、H関数というか、平衡分布とのKL divergenceの単調性を示す方法である.irreducibleの部分が議論になっていて、唯一性が甘くなっていたように記憶しているが、物理的にはだいたいよいという話である.いずれにしても、100年たってこんなになるとはMarkovさんも思っていなかったことだろう.これが数学のパワーか.

Message Passing, Cavity method ... and

その他

PercolationのZiffおじさんに発遭遇.高温展開の確率的計算方法の話.パワーサプライ問題.レコード統計問題.計算論的に面白い話題が多かった。これらは研究会の趣向が出ていてとても興味深い.


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最終更新時間:2013年08月16日 11時28分33秒